表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/356

第十三章 ゲルマニア戦役(二) 場面七 別れ(三)

「ティベリウス」

 アントニアが、ためらいがちに沈黙を破った。

「もう少し、話をしても構わない?」

 ティベリウスは義妹を見つめる。

「ウィプサーニアの具合がよくないの」

 思いがけない話だった。

「一度、お見舞いに行ってあげては下さらない?」

(やまい)か」

 アントニアは目を伏せた。

「それがよく判らないの。時々胸が苦しくなるって。大袈裟なことじゃないからって笑っていたけど、お母様が亡くなる前も同じだったって以前に聞いていたから、少し心配なのよ」

 ティベリウスはしばらく黙っていたが、小さく吐息を洩らして言った。

「考えておこう」

 そう答えたものの、三十歳前に別れたきりの妻と、六十歳に手が届こうとする今になって顔を合わせる勇気は持てそうになかった。ウィプサーニアの方はどうなのだろう。ドゥルーススがときどきこの母と会っているから、むしろそれだけで十分なのではないか。息子は、ユリアを授かった時に、ティベリウスがローマに戻るのを待って、母に「孫」を見せてもいいかと遠慮がちに尋ねた。ティベリウスよりも先に見せるわけにはいかないと思い、帰還を待っていたのだという。そんな気遣いをみせる息子が愛しくもあり、不憫でもあった。

 アントニアは時間をとらせた事を詫び、ティベリウスの頬に軽くキスして部屋を退出した。



          ※



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ