第十三章 ゲルマニア戦役(二) 場面五 ゲルマニクスの帰国(五)
「今度は君が、ゲルマニアに派遣されるんだろう」
「いや。ぼくはパンノニアに行くよ」
心底驚いたらしく、ゲルマニクスは眼を丸くした。
「確かかい?」
「ああ。君の凱旋式を見届けたら、すぐに発つことになってる」
「何のために?」
「ダーウィヌス河の防衛線堅持のためだよ。南岸のイリュリクムは落ち着いているけど、北岸のゲルマニアは、君の活躍で大きく動いた。ゲルマン人たちは、ローマという外敵がいなくなると、とたんに内輪もめに走るところがあるようだよ。しばらくは目が離せない」
ゲルマニクスは微笑した。ようやく普段の快活さを取り戻したらしい。
「じゃあ、次は君の凱旋式だな」
「どうかな。ぼくは戦争をしにいくというよりも、ゲルマン人たちの内輪もめの調停と、防衛線の確立が主な役目だから」
ゲルマニクスはドゥルーススの肩を叩く。
「君、時々恐ろしく醒めてるよな」
「そうかな」
「野心はないのか」
ドゥルーススはちょっと考えた。ゲルマニクスは噴き出した。
「そこで考える奴も珍しいな! まあ、呑もうよ。いきなり湿っぽい話で悪かった。忘れてくれるとありがたいな」
「多分、呑んで寝たら忘れてるよ」
ドゥルーススは言った。従兄はドゥルーススの返答が嬉しくてたまらない様子で、ドゥルーススの両頬に音を立ててキスした上にきつく抱擁したものだから、ドゥルーススはつい真っ赤になってしまった。
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