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第十三章 ゲルマニア戦役(二) 場面三 ゲルマニア(五)

 パンノニアから戻ったアプロニウスは、ドゥルーススがゲルマニアの暴動のことを気にしていた、と言い、状況をティベリウスに尋ねた。ティベリウスがその問いに答えずにいると、この信頼する部下は、ゲルマニアへ派遣して欲しい、と自分から言ったのだった。ティベリウスにとって、願ってもない申し出だった。パンノニアからまさにとんぼ返りしてきたばかりだ。さぞ疲れていただろうに。アプロニウスは数日をローマで過ごしたのみで、すぐに少数の親衛兵たちと共にゲルマニアへと発った。

 銀鷲旗の奪還は確かに喜ばしいことだったが、ティベリウスの心は晴れなかった。アプロニウスに関してのことではない。総督カエキーナを派遣してまで惨劇を訪れたゲルマニクスの行動が、戦闘を遂行中の総司令官としての、熟慮に基づいた行動であるとはとても思えなかったからだ。

 「テウトブルクの悲劇」は、司令官ウァルスの軽率さが招いた、極めて不名誉な敗北であり、ローマ軍の恥辱だった。その直後にゲルマニアに派遣されたティベリウスは、惨劇に萎縮し、自信を失った軍団兵たちを見た。ティベリウスは三年をかけて彼らを鍛えなおし、自信と誇りとを取り戻させるよう努力をしたのだ。

 ゲルマニクスが単なる物見高い好奇心から現場を訪れたとは考えたくない。野ざらしの死体を葬ってやりたい―――一個人としてなら、その気持ちはよく判る。軍団兵たちも同じ気持ちだっただろう。だが、衝撃からようやく回復したレーヌスの軍団兵たちに、生々しい惨劇の現場を見せることがどれほど危険か、ゲルマニクスは少しでも考えたのだろうか。ましてゲルマニクスは、今まさに戦役を遂行中の総司令官なのだ。私的な感情に基づいて行動することなど、絶対に許されないのに。

 ティベリウスには、軍団内に複数の情報源がある。彼らはそれぞれ報告書を送ってきた。総督カエキーナは、沼の中から血まみれのウァルスが姿を現し、自分を沼の底に引きずり込もうとする悪夢に魘されたという。四十年近く軍隊生活を送ってきたあの男でさえだ。

 報告は刻々と届けられた。ゲルマニクスのゲルマニア侵攻は、失敗だったとまでは言えないが、だからといって成功したというにはあまりにも犠牲が大きすぎた。いくつかの戦闘では勝利を収めた。銀鷲旗も一つは奪回した。多くのゲルマン人の集落を焼き払った。だが、それによって多くのゲルマニア人がローマにひれ伏したわけでもなかったし、ましてや覇権の確立など望むべくもなかった。

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