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第十章 混乱 場面一 アウグストゥスの死(一)

ノラの地で亡くなったアウグストゥスの遺体は、ティベリウスらに守られてローマへの帰還を果たした。元老院ではアウグストゥスの遺言が公開され、ティベリウスはローマの統治権を引き継ぐが、その心境は複雑だった。そんな折り、パンノニアの軍団が待遇改善を求めてストライキを起こし、ティベリウスは対処を迫られることになる。

 アウグストゥス死去の知らせは、すぐに首都にいたドゥルーススの許に届けられた。

 死期を悟ったアウグストゥスから、ドゥルーススは既に一度書簡を受け取っていた。アウグストゥスは、このことはまだ極秘事項であるとした上で、カエサル家内のことは家人のクリスプスに、表向きのことは神祇官ピソに相談するようにという指示を送ってきた。神祇官ピソは、前任者スタティリウス・タウルスの逝去を受けて、二年前から都警察長官に就任している。

『今、わたしは死へと向かう床の上で、そなたの父の到着を待ちわびている。まだ若いそなたにとって、これからしばらくの間は大変なことになるだろうが、カエサル家の一員として、立派に役目を果たしてくれることと思う。そなたには辛い思いばかりさせた。わたしと父ティベリウスとの間に挟まれ、さぞ苦しかったことだろう。そなたの聡明さ、この上ない愛情の深さが、どれほどこの老人を、そしてあの強情な男を慰めてくれたことか。愛しい孫、ドゥルーススよ。わたし亡き後、カエサル家をよろしく頼む』

 ドゥルーススは二十五歳だ。「未成熟者」(十四歳以下)、「未成年者」(二十四歳以下)を経て、ようやく「成年」と呼ばれる年齢に達しており、「まだ若い」といわれる年齢では既にない。それでも、確かにアウグストゥスの死という重大事に対処するには不安も大きかった。アウグストゥスはローマから遠く百五十マイル(二二〇キロ)離れたノラの地にあり、父ティベリウスもそこへ向かっている。リウィアは夫に付き添っており、兄ゲルマニクスはゲルマニアに赴任中だ。ユリウス・カエサル家の長であり、かつローマの第一人者であるアウグストゥスの死を迎えるにあたり、カエサル家の表の顔となる役目は、父が戻るまではドゥルーススが務めなければならないのだった。

 それだけに、アウグストゥスの書簡の後、ほどなくしてティベリウスからアウグストゥスの死にあたっての詳細な指示書が送られてきた時には、ドゥルーススは心底ホッとしたのだった。この時には既にアウグストゥスの不例は公のものとなっており、ドゥルーススも内々に親しい人々に相談を持ちかけることが出来るようになっていた。



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