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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
最終章 神を弑した先にあるもの
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旅は道連れ

「見事、じつに見事です。私の目に狂いはありませんでした」


 満面の笑みを浮かべながら、シンが歩み寄ってくる。薄れゆく意識の中で、アユムはシンが近づいてくるのを眺めていた。


 シンがアユムの手から神石を奪い取った。奪われまいとした抵抗は、力が入らずやすやすと突破されてしまう。


「シ、シンさん何を?」


 追いすがるアユムを見てにんまりと笑うと、シンはそのまま神石を飲み込んでしまった。アユムはそこで意識を失った。



 すべすべと肌触りのいいシーツ。ふんわりと柔らかい布団は軽いのに暖かくて離れがたい。アユムが起き上がったとき、そこは見知らぬ部屋の中だった。


(ここは一体どこだろう?)


 アユムが辺りを見渡していると、部屋の扉を開けメイドが入ってきた。メイドはアユムが起きていることに気がつくと声を上げて驚き、すぐに身を翻してぱたぱたと駆けて行ってしまった。


 一体何だったんだろうと思いながら、けだるい体をベッドから起こすとそこにヨーグが現れた。


「おぉアユムさん、ご無事でよかった」


 ヨーグはそう言うとアユムの元へやってきて手を強く握りしめた。


「今回ばかりはアユムさんの力無くしては成功などあり得ませんでした。ありがとうございます」


「あの、よく憶えていないのですが、あの後どうなったのでしょう? シンさんやほかの人たちは一体?」


「稀人の皆さんはもうここにはいませんよ。シンさんはいま、教会にいるはずです。彼はいまや現人神(あらひとがみ)となったのです」


 顔をしかめ、首を傾げるアユムを見てヨーグは申し訳なさそうに笑った。


「本来であれば、もっと早くお話するべきでした。無用なトラブルを避けたかったのです。」


「この度の計画は彼、シンが戦いに敗れたフェンリルが吸収されるところを目撃したことに端を発します。


 彼はそこで、『人生で最も美しい瞬間に立ち会えた』とそのときの様子を教えてくれました。


 ショウたち東村の一族の伝承が、わからなかったことも教えてくれました。


 神の権能を神石に移した後、それを扱うには誰かがあの石を取り込まなければなりませんでした。神の力を受け入れるには、強靭な肉体と精神が必要です。その点彼は完璧でした。


 なんせ彼はこの街ができる前、300年以上前からA級冒険者として戦い続けているのですから」


「そんな馬鹿な」


「私も初めは信じられませんでした。


 魔物を倒しレベルを上げることで若さを保つことができるというのは、アユムさんもご存じかと思います。


 しかしそれにも限界がある。日々命をかけ戦い続けることは並大抵の人間にできることではありません。肉体以上に精神をすり減らし、多くの人は戦うことを辞めるか、壊れてしまう。


 しかし彼は私が子どもの頃から何も変わらなかった。


 ある日彼がこっそり300年前にあったという、フェンリルとキュウコとの戦いを話してくれました。彼はおとぎ話だと笑いましたが、私はそれが事実だと確信しました。


 彼が300年前から生きているということも。


 それから私たちはずっと共犯者です。このイナリの街が永遠に繁栄を続けていくためには、この街の神であるのは彼でなければならなかった」


「だけど奴は……まともじゃない」


 ヨーグはそれを聞いても動じる気配もない。


「知っています。彼がどんな人間なのかも。


 ですが悪意というのは必ずしも悪いものなのでしょうか?


 欲しいものはすべて手に入れたい


 誰よりも強くなりたい


 死にたくない


 人は誰しも欲を持ち、それは容易く悪意に繋がってしまう。でもそれは向上心の現れなのではないでしょうか。


 なりふり構わず、本気で頑張るから勝ち取れるものがあるはずです。だからこそ、この街はこれ程まで栄えてきた。それはこれからも同じです」


「そこに、本当の(さいわ)いはあるのでしょうか?」


「そんなあやふやなもの。これ以外を私は知りませんし、私は負け犬になるのだけはごめんです」


 話はこれまでと、ヨーグは白金貨のつまった小袋を手渡した。


「本当にありがとうございました。あなたのおかげでこの街は、もっと素晴らしい街になる。


 もうこの街に迷い人が来ることはないでしょう。


 アユム君は鍛冶職人のカジト君のことを憶えていますか? 自ら考え、工夫していく。あんな若者が報われる街に、これからは私がしていきます」


「そしてその技術はあなたが独占するのですか?」


 ヨーグはくすりと笑って言った。


「いいえ、キュウコの二の舞にはなりませんよ。ある程度の回収はしますが、独占は長期的に見て愚策ですから」


 ヨーグが去る後姿を見ながら、アユムはある決意を固めていた。



 ドアをノックすると、中からレイが姿を現した。


「レイ、ちょっといい? 相談したいことがあるんだ」


 アユムはレイにすべてを話した。神様を弑したこと、ダンジョンの成り立ちのことについて。覚悟を決めて話すと、気分がすっきりとしたのがわかった。


「そうか、そんなことがあったんだな。……アユム、お前頑張ったんだな」


 そう言って見つめる優しい目は、クオンにそっくりだった。アユムの目から涙が溢れた。


「レイ、僕はこれまで、何度壁に当たりくじけそうになったかわからない。でもその度にレイやクオン、サリナたちが傍にいてくれた。だから立ち上がることができたんだ。


 ねぇレイ、聞いてくれる?


 僕は何が正しいか、これっぽっちもわからないんだ。


 だから僕はこれから旅をしようと思う。世界はここがすべてじゃない。ほかの世界も知りたいんだ。

 だからレイ、僕たちと一緒に来てほしい‼」


 アユムはきつく目を閉じ、頭を下げたまま手を差し出した。


 ……しばらく沈黙が続く。やっぱり駄目だろうかと息を吐き、目を開いて見上げると、そこには呆れた顔をしたレイがいる。


「何水臭いこと言ってんだ。お前が行くなら俺も行くよ」


 アユムはぱっと顔を輝かせ、レイを抱き寄せた。


「ありがとうレイ、ありがとう‼」


「痛い、いてぇよアユム。お前いまの自分の力を考えろって。…ん? そういや『僕たち』って、ほかに誰がいんだ?」


「それは私のことよ!」


 アユムの胸元から赤い光がほとばしる。思わずレイは飛びのいた。そこには気まずそうに顔をかくアユムと、シスターの姿をした子どもがいた。


「初めまして、私の名はキュウコ。この街の『元』神よ」


 レイは驚きのあまり口をパクパクしている。アユムはレイが腰を抜かしたことなど初めて見たので何故か感心していた。



 話はさかのぼり、ヨーグと別れた後のこと。


 アユムが身支度をしていると、何やら胸元に違和感を覚えた。


 何だろうと思って見ても、胸元にあるのはいつも通りクオンのお守りと神石を入れていた空の…そこには確かにナニカが入っている感触があった。


 驚いたアユムが恐る恐る袋の中を開いてみると、そこには何故かもう一つの赤い神石があったのだった。


 アユムは思わず声を上げて手を離した。すると神石が赤く輝き、次の瞬間にはそこにいなくなった筈のシスターの面影を残した少女がいたのだった。


「静かにしてよ。あの強欲商人に見つかったらどうしてくれんのよ」


 頬を膨らまし、指を指して怒るシスター。


「な、なんで? あなたはあのときシンさんに吸収されたはずじゃ?」


「誰があんな薄気味悪い人間と一緒になるもんですか。あのときの見込まれたのはフェンリルの権能と私の能力の一部よ!


 元々二つの力なんだから、分けることは不可能じゃないわ。


 まぁそれでも、力をちょっと奪われたのは予想外だったけどね」


 キュウコは自らの体をしげしげと見て深くため息をついた。


「まぁいいわ、力はまた蓄えればいいし。これはこれで面白いわよね。


 それで、私の眷属。命令よ、あなたの旅に私を同行させなさい」


 どや顔をしながら命令する少女。


「え、何故それを?」


「私を誰だと思っているの? あなたと繋がったあのとき、あなたのことは大体理解したわ。ちょっと頼りないし、うじうじ悩みすぎでイライラするけど、それもまぁ嫌いじゃないわ。


 あなたと一緒なら楽しそうだと思って苦労して忍び込んだんだから、光栄に思いなさい」


 キュウコはそう言って、腰に手を当てふんぞり返るのだった。


「……と、いうわけなんだ」


「お前、何がどういうわけでこうなるんだよ」


 レイは怒ったらいいのかあきれたらいいのかわからずため息をついた。


「神様が同行するのよ。喜ぶしかないじゃない。変な子たちね」


 元邪神は心底意味が分からないといった様子だ。アユムとレイは顔を見合わせ、笑った。


「そうだね、キュウコ様。俺たち3人で新しい旅に出よう。見果てぬ土地へ、新しい出会いを求めて」

この話はこれにて完結です。

決して楽しいばかりの話ではなかったにもかかわらず、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。あなたは私の初めの読者です。心より感謝を申し上げます。


最後に、もしよかったら感想・評価お願いします。

この後は何話か番外編を書いていこうと考えています。設定的にも入れたほうがより面白くなる話もあるんですが、ちょっと内容がアレだったので番外編へ移すことにしました。反響を見ながら書いていきたいと思いますので、よろしければそちらもご覧ください。

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