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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
最終章 神を弑した先にあるもの
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神を弑するものたち

 A級冒険者には大きな期待が寄せられる。


 貴族の依頼なのだろう、深層に潜む「アラクネの糸」を納品するよう頼まれたこともあった。


 アラクネは危険な魔物だ。巨大なクモの頭部から人の上半身が生えている、悪夢に出てきそうな姿をしている。


 ダンジョンでは深層に行くほど姿も、性質も悪意に満ち満ちたような魔物が増えてくる。


 アラクネは中でも狡猾で、様々な性質を持つ糸を使ったトラップを張り巡らし、さらには強力な魔法まで使ってくる。


 だがアラクネの糸は最上級の糸であることも知られている。肌触りもよく、膨大な魔力を蓄えられるため高度な付与魔術にも耐えうるからだ。


 依頼してきた貴族は、子どもが成人するお披露目式に使いたいからと死地に挑むよう強要してきた。


 断ることは可能だが、もうこの街にはいられなくなるだろうと言われたからこれは強制以外の何物でもない。


 独りでは達成困難だった依頼だが、そのときはシンを含むA級冒険者5人でパーティーを組み挑んだ。以来シンとは何度か組んでいる。


 あれほど抵抗のあった相手だが、もう慣れてしまった。そうしなければいずれ死ぬだけだ。


 A級冒険者になったら、誰よりも大きな存在になって自由に生きられるなんて夢物語だ。


 上には上がいて、そいつらは血筋や金、権力といった自分には手の及ばない訳の分からない力を持っている。そしてそんな人間には従うしかないという現実を知るだけだった。




 だからその日、内密にと集められた会合にシンやほかのA級冒険者が集められているのを見ても、アユムはまたかとしか思わなかった。


「これは邪神を(しい)し、この街を救う戦いです」


 ヨーグは集まった冒険者たちを前にそう言った。そのかたわらには、コートを深々と被り、顔の見えない男が立っている。


「この街はどこよりも栄えておる。街は整備され、人々はあまねく魔法の力による恩恵を授かっている。これのどこに問題があるかの?」


 年嵩の冒険者が言った。


「それについては俺から説明しよう」


 ヨーグの傍らに立っていた男がローブを脱いだ。


「俺は迷い人の山田裕貴だ。ヤマダとでも呼んでくれ」


 それはかつてテッドの住む共同住宅で出会った男だった。


「この街の発展は神にコントロールされた歪なものだ。教会からの啓示があってかろうじて成り立っている。


 言ってみれば餌を待つ雛鳥のようなものだ。気紛れで親鳥が餌をやるのを辞めてしまえば、この街は終わる」


 ヤマダはこの街の技術発展における歪さを語った。


「邪神キュウコは、イナリの街にあるダンジョンのマスターであると考えられます。


 かの邪神はこの街の住民から吸い上げた生命力を使って、魔物の生成だけでなく、迷い人を召喚しているのです。


 異世界の住人を召喚するためにどれほどエネルギーが消費されているか、考えるだけでもおぞましい話だと思いませんか?」


 イナリの街には毎年村から沢山の人が流れてくるが、村に戻った人はほとんどいない。それは誰もが知っている事実だった。


「だが邪神とはいえ、神なきあとダンジョンが失われては、この街は立ち行かないだろう」


 一斉に非難の声が口々に寄せられる。


「そのために今回は、秘策をご用意しました」


 ヨーグはざわめく会場をよそに部屋の外に声をかけると、扉を開け3人の男女が姿を見せた。



「初めまして。東の村ガクトより参りました藍井翔あおいしょうと申します。ショウとお呼びください。


 邪神を弑し、これまでに虐げられてきた人々を救いましょう」


 ショウはひょろりとした体格の若い青年だった。キリリと整えられた格好に、使命感に燃える熱い眼差しをしている。


「初めまして、私は金井舞かないまいです。マイって呼んでください。西のツルカネ村から来ました。


 キュウコが何なのか知りませんが、ヨーグさんとは既に契約が成立しています。依頼達成のため、皆さん頑張りましょう」


 マイは背が小さく、髪のふわふわした女の子だった。眠そうな目をしていて、その口から出る言葉は酷くさばさばとしている。


「私は遠藤奈央えんどうなおよ。何とでも呼べばいいわ。


 この街のことなんてどうでもいいけど、ご主人様の命令で来たからには、あなたたちに協力します。精々足だけは引っ張らないで」


 ナオはそう言ってにらみつけるようにして前を見ている。その手は縛られ、首には奴隷紋が刻まれている。


 南では農耕などにいまでも一部の地域で奴隷が使われていると聞いていたが、実物を見たのは初めてだった。


「彼女たち、そしてもう一人この計画の要となる人物がいます。アユム、いや小林歩向さん、それが君です」


「どういうことですか?」


 すべての視線がアユムに注がれる中、アユムは戸惑いながら訊ねた。


「アユムさん、あなたはここいる彼女たちと同じ迷い人ですね」


 ショウは誇らしげに、マイはどうでもよさそうに、ナオは憎々しげに頷く。


「迷い人は稀に、高い魔力の親和性と、ある特殊な能力を持ってこの世界にやってきます」


 ヨーグが3人に目配せをすると、3人は目を瞑った。そして次に開いたとき、そこには真っ赤に輝く目があった。


「魂を剥ぎとり現世に押し留める力。それがあなたたちに宿る力です。力持つ迷い人のことを私たちは『稀人』と呼んでいます。


 迷い人であれば誰でもいいというわけでもないのですよ。


 ここにいるヤマダさんにはこのような力はありませんでした。代わりに貴重な意見を頂いていますがね。


 一部の血族にはいまも稀人の力が受け継がれているようですが、彼らは村を守る重職に就いていることが多く、そもそも力も弱いので使い物にはなりません。


 ですが迷い人は数が少ない上に保護されずに死ぬものも多いですから、同時に4人もの稀人が集まったのは僥倖(ぎょうこう)でした」


 ほくほくと満足そうに話すヨーグ。それを見てそれまで口をつぐんでいた冒険者が口を挟む。


「それで、そいつらに何ができるんだ?」


「それについては私の方から説明させてください」


 すっとショウが手を高らかに挙げた。


「私の住むガクト村には、過去の伝承や歴史、魔法の技術などを多くの書物として保持・研究する一族がいます。私は幸いなことにその家に拾われ、稀人として村に貢献してきました。


 神を弑する話も、文献の中に残されていたものです。


 そもそもキュウコという神は、300年より前の書物からは見ることができません。


 その頃はこの街もごくありふれた、少し大きな村といったものだったようです。


 ところがある年を境にキュウコという神が根差すようになり、この街は急激に姿を変えていきました。


 キュウコはウコとサコという赤い眼をした眷属と共にこの街を訪れ、フェンリルと呼ばれていた神を弑したようです。


 それからはこの街のダンジョン主にとって代わり、迷い人をこの世界に召喚するようになりました。


 その際眷属として力を与える代わりに記憶を奪い取り、発展に生かしてきたと伝えられています。


 神替わりには稀人の力が必要です。


 一部の地域で人間から抜き取った魂を神石として利用していることは、神替わりの名残りだと思われます。


 神から神威を剥ぎとり、神石として結晶化させることができれば、ダンジョン主の権能だけを残すことが可能だと考えられます。


 とはいえキュウコにどれほどの力があるのかは未知数です。


 ですが稀人の出現率を考慮するとこれだけのチャンスを逃すことはできません。


 ですから冒険者の皆さんにはウコやサコを抑え、少しでもキュウコの力を削ぐことをお願いいたします」


 困惑するアユムを置いて、話は着々と進んでいく。冒険者にはそれぞれ白金貨5枚という破格の報酬が支払われるようだった。


「これだけの金を遣って、あんたは何を企んでいるんだ?」


 ヨーグは爽やかに笑うと言った。


「商人である私が望むのは、非効率と非条理を排し街を発展させる。ただそれだけですよ」

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