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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
第1章 田舎暮らしはカズイシ村で
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積み木遊び

 アユムとレイの主な仕事は、野菜の皮むきといった簡単な仕込みや食堂の片づけ、畑の世話だ。そして空いた時間を見つけては、魔法の練習や村の子どもらに混じって遊ぶようになっていた。




 村の遊びは単純な鬼ごっこのようなアユムも知っているようなものから、魔法を使ったものまで様々だった。


 中でもアユムが驚いたのが「積み木」だった。アユムが想像していた積み木とはまるで違うものだったからだ。正確には「積み粘土」とでも言うのだろうか。


 2人1組になって、それぞれが魔法を使って積むためのブロックをつくる人と、積み上げていく人に別れる。その全長は見上げるほどの高さになることも珍しくない。


 だが魔法を使うのが下手だと、ブロックは形がバラバラで脆いし、うまく風で浮かべられずに崩してしまうこともある。もちろんどちらの役割もある程度は人力でやることもできるが、うまく魔法を使いこなせるかが勝敗のカギとなるのだ。


 テッドとジミーは双子の兄弟で、アユムたちと歳が同じだったこともあり、4人で積み木遊びすることが多かった。2人は顔こそそっくりだが、性格はまるで違っていた。明るく、楽天的なテッドに比べ、引っ込み思案なジミーはいつもテッドの後ろについてまわっていた。

 

 そのためどんな遊びでも大抵はテッドが活躍をして、ジミーは負けて悔しそうな顔をしていることが多かった。「双子の兄弟なのに」そんな風にからかわれることも少なくない。だがそんなジミーが大活躍するのが積み木遊びだった。


 積み木はブロックをつくるのにも積み上げるのにも神経を遣う難しい遊びだ。同じサイズ、形のものを何度もつくるのは至難のワザだし、ずれなくキレイに積み上げていくのも集中力が要る。


 その点テッドはすぐに根を上げてしまうのだが、ジミーは黙々と作業を続けることができた。だから積み木遊びのときばかりは皆がジミーと組みたがった。


 ジミーはそんな様子に戸惑いながらも誇らしげだったし、テッドは最初こそ悔しそうにするのだが、そんなジミーを見てにこにこと笑っているのをアユムは知っていた。2人は性格こそまるで違うが、とても仲の良い兄弟だった。

 



 積み木遊びは奥が深い。年齢が高く、魔法の扱いに長けた者がすると、水魔法を使って脱水させたり、土魔法を使って土の中から硬い鉱物を選り分けて成型するものまで出てくる。


 さらには火や風の魔法をうまく使えばレンガのようなものを作ることもできる。積み木名人は家づくりの名人とまで言われるくらいだ。


 この世界では皆、日常的に魔法を使う。しかし魔法は使いすぎると、周囲の魔力が薄くなりより集めにくくなるためにそれほど多用できるものではないらしい。 


 アユムは何度も無理に使いすぎて頭が痛くなった。


「でも都会じゃ皆、じゃんじゃん魔法を使っているらしいじゃないか」


 何人かで集まって遊んでいたある日、疲れて休憩していたテッドが言った。


「えー、絶対嘘に決まってるよ。いくら使っても無くならないなんて、そんな力あるわけないよ」


 テッドを馬鹿にするようにジミーは笑う。その会話を皮切りに、皆がそれぞれ知っている話を語りだした。


「だって前来たときシスターが…」


 しかしある少年がそうつぶやいたとき、皆がぴたりと話を止めた。


「お前、シスターのところに行ったのか?」


 レイが問いただすように言った。


「シスター? レイ、シスターって誰のこと? この村にいるの?」


 アユムは以前にテレビで見たときのおぼろげな記憶を思い出していた。たしか、教会にいる女性でとても優しそうに笑っていたイメージがある。


「シスターは教会の回し者だって、母ちゃんが言ってる」


 ジミーがアユムを引っ張り、こっそりと教えてくれた。


「祭りに来たら話を聞くだけで甘いお菓子くれるじゃないか。皆行ってるだろ?」


 テッドはそんなジミーの様子に構うことなく大きな声で言った。なるほど、何人かは身に覚えがあるようで顔を伏せていた。

 

「この話はやめようよ」誰かがそう言うと、皆気まずそうに顔を合わせ、そのまま帰っていった。

 

 レイと二人きりになった帰り道、沈黙に耐えかねたアユムは聞いてみた。


「魔法が使い放題だなんて、都会ってすごいんだね、本当なのかな?」


 しかしレイはいつまでも黙ったままだ。宿屋が近くなった頃、レイは突如立ち止まって言った。


「母ちゃんたち大人には、いまのこと言うなよ」


 アユムは納得がいかず、何故かと尋ねたのだが、「悲しそうな顔するから」とぼそっと言うだけで、それきり何も教えてくれない。その時のレイはとても真剣な表情をしていて、アユムはそれ以上踏み込んで聞くことができなかった。



「クオンは都会って、どんなところか知ってる?」


 レイたちから都会の話を聞いて以来、アユムは「都会」というものがどんなものなのか気になって仕方がなかった。


 シスターのことは口止めされていたが、都会の話なら問題ないだろうと考えたアユムは、クオンに聞いてみることにした。


 アユムの頭にある都会といえば、高層ビルが立ち並び、たくさんの人が行き交う街だ。


 以前家族で東京へ行ったときのことは苦い思い出だ。


 前日はそれこそ「あれを買おう」、「あそこに行きたい」などワクワクしていたのに、いざ行ってみればあまりの人の多さにこのまま人混みに飲まれ二度と両親と会えなくなってしまうのではないかと怖くなり、すぐに帰りたくなったものだ。


 だからアユムにとって都会とはいいものではなかった。だからこそ、皆が楽しそうに語る都会が気になった。


 クオンは目を細め、口元に指を当てしばらく考えていた。あまりにも長い沈黙に、やはりこの話は聞いてはいけなかったのだろうかと不安になり始めた頃、クオンは言った。


「俺は数えるほどしか行ったことはない。物も人も、何もかもが騒ぎ立てているような場所だ。皆都会へ行って、誰も帰ってこない」


 クオンはそう言って遠くを見るような目をして、それ以上何も答えなかった。

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