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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
第2章 欲望と発展の街イナリ
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魔石の恩恵

 魔石を使うようになり、ダンジョン探索の効率は飛躍的に高まった。


 使うときのどろりとした厭な感情にはどうしても慣れずにいたが、その力は絶大だった。


 アユムはいまや魔石を使って次々と高威力な魔法を使い、独りで魔物を倒していく。


 何年か経った頃には、アユムはA級冒険者になっていた。



「アユム、昇給おめでとう」


 その日A級冒険者昇格のお祝いに、アユムは久しぶりにレイと飲みに来ていた。

 

 以前テッドやジミーたちと初めて来た思い出の店だ。

 

 だがあのときはあんなにも美味しく感じた食事も、いまではありふれたものにしか思えないのが空しい。


「ありがとう、レイ。でもこれは僕の力じゃない。村での日々があったからだよ。


 A級になっても、何も変わらないさ」


 先程ギルドで更新されたカードを見ると、「A級」と刻印されている。しかしそれだけだ。


「お前にはやっぱり特別な力があったんだよ。それをクオンやサリナが育てていまがあるんだ。俺にはそれが誇らしいよ」


 レイはそう言って酒を一気に飲むと、満足そうにレイを見つめていた。



 オーガを倒したあの日から魔石を使うようになり、二人はより深層を探索することができるようになった。


 しかし深部に行けば行くほど、より凶悪な魔物が出てくる。


 レイは足止めさえ困難になり、通用するのは主にアユムの魔法だけになってくる。


 そうなるとレベルが上がって強くなるのもアユムばかりになり、徐々に二人の差は広がっていった。


 それでも懸命にレイはついていこうと昼夜を問わず訓練に励んだ。


 皮が擦りむけるほど剣を振り、血反吐を吐くほど戦闘訓練を行った。


 しかしある日深層の魔物の攻撃をさばききれず大きなダメージを受けて死にかけたとき、レイはアユムについていくのを辞めた。


 またある日、レイが傷だらけになって帰ってきたときがあった。


 慌ててアユムが理由を尋ねると、どうやら魔石の魔力が暴走したことによるらしかった。


 下手をしていたら死んでいたことにアユムは肝を冷やし、珍しくレイを怒鳴りつけた。


「俺も頑張ればできるようになんじゃねえかと思ったけど、やっぱ駄目だな」

 レイは力なく笑っていた。


「深層に潜るのを辞める」


 アユムがそう言ったこともあった。するとレイはアユムを殴り飛ばし言った。


「同情でもしてるつもりか? なめんじゃねえよ。俺一人でもいつかきっと、深層に行けるようになってやる。だからお前はこの道の先で待っておけ。


 頼むから、俺のせいで自分の未来を犠牲にするようなこと、もう二度と言わないでくれ」




(オーガと戦ったあの日から、もう何年が過ぎたのだろう)


 料理を食べながら楽しそうに笑うレイを見れば、目尻にシワや白髪が見えた。


 レイは少し老けた。一方アユムはいつまで経っても若々しいままだった。


 それには高いレベルが関係している。


 シンもそうだが、高レベルな冒険者は実年齢よりもはるかに若々しさを保つことができる。


 体に宿る魔力の量が多いからだとか、キュウコ様の祝福だとか様々なことが言われている。


 レイはあれから独りでダンジョン探索を続け、努力の甲斐ありB級冒険者になることができた。


 でもそれが頭打ちだった。


 それからどれほど努力をしても、二人の差は開くばかりだった。


 だがそれでもレイは一人努力を続けている。


 老いの証であるはずのシワや、うっすらと残る古傷だらけのレイをアユムはまぶしく感じていた。




(俺は何のために戦っているのだろう?)


 独りダンジョンに潜り大量の魔物を次々と魔法で(ほふ)りながら、アユムは物思いにふけっていた。


 大量の魔物を一度に倒すと、ぞろりとたくさんのナニカが体の中に入ってくるのがわかる。


 燃えるように熱い胸を抑えながら、アユムはそのナニカを感じていた。


 それは誰かを呪う怨嗟(えんさ)の声だ。


 死にたくないと生を切望する声だ。


 力及ばぬ現実を前に打ちひしがれた、絶望の声だ。


 それら声にならぬ想いがこの身に入り、体をつくり換えている。


 アユムは顔に手を当てる。


 そこには老いなど知らぬ、すべすべとして張りのある肌があった。


 アユムはそれがとても気持ちの悪いものとしか思えなかった。


 だがアユムの命はサリナやクオンたちに生かされたものだ。


 レイが期待してくれている。

 

 アユムはそれを支えに、今日もダンジョンへ潜り続けるのだった。

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