同行探索
約束当日、ダンジョン前にはアユムとシン、それとレイの姿があった。
シンと酒場で会った翌日、レイと一緒にいつものようにダンジョン探索を行っていた。
しかしアユムは心ここにあらずといった様子で動きに精彩を欠き、怪我をしてしまう。
それまでも悩んでいながら何も話してこないアユムの様子にイライラとしていたレイは、ついに切れた。
静かに怒るレイを前にアユムが黙っていられるはずもなく、すべてをレイに話してしまったのだった。
「俺も一緒に行く」
かっと目を見開きぴくぴくとまぶたをケイレンさせていたレイは、それだけ言うとそれきりしばらくの間一言も話してくれなかったのだった。
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「……というわけなんですが、今日はレイも一緒にいいですか?」
「今日は一緒に勉強させていただきます、レイです。よろしくお願いします」
「もちろん最初からそのつもりでいたさ。今日は3人、実りある時間にしよう」
にこやかに笑うシンを見て、アユムはほっと胸を撫でおろした。
シンはA級冒険者という肩書に違わない優れた冒険者だった。その強さは異質なものだと思わざるを得ない。
身体能力の並外れた高さはもちろんのこと、さらには多種多様な魔物に対する知識から、条件反射のように素早く最適な攻め方をする。
長年親しんだ庭を散歩するように、シンはダンジョン探索を進めていくのだった。
アユムはシンがパーティーにいるだけで、自分は強いんじゃないかと錯覚してしまったほどだ。
シンに少しでもいいところを見せようと、アユムも頑張った。
神経を研ぎ澄まし、風の精霊に耳を傾ける。実際に声が聞こえるわけではないが、風の通り具合によってどんな魔物が、どこにいるのかがわかる。
「アユム君は本当に素晴らしいね」
あるときシンは感心したように言った。
「中層以降になると、気配の隠蔽がうまい狡猾な魔物も増えていく。
にもかかわらずアユム君の索敵には漏れもなく、その範囲も広大だ。まったく、恐ろしい力だと言えるよ」
アユムはシンに褒められ、つい緩んでしまった顔を押さえたが、舞い上がる気持ちは抑えられなかった。
レイと二人ならそろそろ帰還を考え始める階層に辿り着くまで、そう時間はかからなかった。
「さすがですねシンさん。ここまでこれほどスムーズに来れたのは初めてです」
「いやなに、アユム君の正確な索敵があったからこそだよ」
シンに褒められて、アユムはただ純粋に嬉しかった。だからその後何が起こるかも知らず、顔をほころばせるのだった。
「それにこれくらいB級以上の冒険者なら、できて当たり前さ。二人もすぐにできるようになる。
それよりもさぁ、先を急ごうか」
先を進もうとするシンを、慌ててレイが引き留めようとした。
「待ってください。俺らはまだこの階層以降の準備ができてません。もう少し準備してからでないと危険です」
それを聞いたシンは肩をすくめて言った。
「それは少し慎重すぎるというものさ。臆病と言ってもいい。成功するためには多少のリスクを負うことも必要だよ。
学ぶ機会を放棄すること、それは怠慢じゃないかな」
「でも……」と言い返そうとするレイをアユムが引き留めた。
「今日はシンさんもいることだし、心配ないんじゃないかな? どんな階層なのか実際に見ておきたいし、これはきっとチャンスだよ」
レイはそれでも何かを言いたそうにしていたが、その言葉をぐっと飲み込み了承してくれた。
「わかりました、生意気言ってすみません」
「わかってくれたならいいんだ。それじゃあ早速先へ急ごう。ちょうどこの階層に、宝箱がよくあるとっておきの隠し部屋があるんだ。
今日はきっと、素晴らしい日になるよ」
その部屋はスイッチで稼働して上下する壁の向こう側に隠されていた。
最初に違和感を感じたのはレイだった。
「おいアユム。ちょっと待て…。何か、感じないか?」
アユムは目を閉じ、風魔法を使い周囲を探った。この先には少し不自然な広い空間があるようだが、魔物の気配はない。
「おかしいところはないようだけど」
後ずさりするレイに対し、アユムは少し首を傾け先へと進んでいく。レイは顔をしかめながらも追うようにして進んだ。
こうして二人はその部屋に入ってしまったのだった。




