マウント
ダンジョンに潜り始めてから3年の月日が経った。
イナリでは金さえあれば何でも手に入る。
ダンジョンは危険を伴うが、得られる利益は莫大だ。そうは言っても資金には限界があるわけで。アユムはレイに度々「また買ったのか」と渋い顔をされていた。
(まったく、装備というのは買いだせばキリがない)
ダンジョン探索に必要だろうという機能はいくらでもあるのに、少し機能を欲張ると、指数関数的に値段が跳ね上がるのだ。
だが命がかかっている仕事なのに、妥協して買うということがアユムは厭だった。
その結果資金が無くなり、「ダンジョンを探索するための資金」を集めるためにダンジョンを探索するという訳の分からない悪循環に陥っていた。
色々な人と飲み会に行く機会も増えた。
ある日欲しい装備をジミーと相談していると、様々な冒険者や商人が集まるというパーティーに誘われた。
「今度うちの商店が主催するパーティーがあるんです。アユムもレイと一緒に是非来てください。
ダンジョン探索をする上で色々な話も聞けますし、何かあったときに助けてくれる繋がりも必要でしょう」
「いつまでもレイに頼ってばかりじゃなくてね」と、からかうようにジミーは言った。さっと顔を赤らめるアユム。
「俺だって、もう一人前の冒険者だ」
そううそぶくも、自分がそこまでレイの力になれているかは不安が残る。アユムはジミーから招待状を受け取ることにした。
「俺らにはそんなもの、必要ない」
アユムがパーティーの話をすると、開口一番レイはそう言った。
レイの意志は頑なで、アユムが何を言っても首を縦に振らなかった。
やむを得ずパーティー当日、アユムはジミーと飲んでくるとだけ伝えてパーティーへと向かった。
※
「アユム、その格好はさすがにちょっと」
待ち合わせ場所でアユムの姿を見て、ジミーは困ったように笑って言った。
「今日のパーティーの参加者は冒険者だけじゃないんですよ。そんな恰好では紹介した私まで笑われてしまいます。
こんなことだと思って、早めに待ち合わせしてよかったです」
やれやれと肩をすくめると、ジミーは店にアユムを引っ張り込む。そこには針子のようなスタッフが何人もいてメジャーを当て始める。
アユムは頭からつま先まですべてのサイズを測られた。
ジミーはぶつぶつとつぶやきながら洋服を当てていく。着せ替え人形になった気分だった。
その後髪の毛を整えられ爪まで磨かれたときは、パーティーに行くなどと軽はずみに言ったことを深く後悔していた。
ようやくジミーの納得がいったときにはすでにへろへろになっていた。
ふと会計を見ると、さっと血の気が引いたのがわかった。
「なぁ、銀貨20枚もするのは普通なのか?」
アユムは思わず口に出して聞いてしまった。
「コートから靴まで一式揃えましたから、これくらい『普通』ですよ。厳しいようでしたら立替えますが」
「これくらいなら何とかするさ」
(パーティー服って、下手な鎧くらいするんだな。)
とんでもない世界に足を踏み込んだ気がして、アユムは乾いた笑いをするしかなかった。
※
「作法だから」という理由で、大した距離でもないのに馬車に揺られ、パーティー会場にたどり着く。
そこには高級そうなスーツやドレスに身を包んだ男女が集い、楽しそうに話していた。
ふと横を見るとジミーがいそいそと腕時計を付け替えていた。
「ジミー何で時計を変えているんだい?」
ジミーは平素から腕時計を着けている。ましてや会場には大きな柱時計さえある。今更新しい腕時計が必要になるとは思えなかった。
「アユム、この時計はミスリル合金製で、ところどころに一級のダイヤをあしらっています。これだけで金貨3枚は下らないでしょう」
「な、何故そんなものにそこまで?」
開いた口が塞がらないアユムはまじまじと時計を見る。それだけあればオークの一撃だってビクともしない鎧が買えそうだ。
「決まってるじゃないですか。マウントをとり、交渉を円滑にするためです」
さわやかに笑って身なりを整えると、ジミーはさっそうと会場へと入っていった。




