ダンジョンは神の試練
新しい装備できるまでの間と、できてからしばらくの間。新しい装備と連携に慣れるため二人は森で訓練をした。
レイが敵を引きつけ、アユムが弓や魔法、ナイフを使って遊撃することに役割は決めた。
レイの守りは固く、アユムがどんな攻撃をしても大抵は盾や腕を使っていなされてしまう。
歴然とした技術の差に悔しい思いを感じながらも、その都度どうすればいいかを考え、工夫していくことに胸躍らせた。
新しい装備を身に着けると、自分がまるでヒーローになれたような気分になる。体が軽く、信じられないような力が出る。
(この力で少しでも人を苦しめる魔物を退治できれば)
アユムは自分がまるで、かつて読んだ物語の主人公になったような気分でいた。
「アユム、調子に乗ってると痛い目に遭っても知らないぞ」
レイは度々アユムをいさめるのだが、アユムはそんな浮ついた気持ちをぬぐいきれないでいた。
準備期間はあっという間に過ぎていった。
ダンジョンに潜る日がやってきた。その記念すべき初日、アユムとレイは入り口の前で二人、手を繋いでいた。
その理由はダンジョンの仕組みにあった。
※
時は少しさかのぼり、二人は神殿に来ていた。魔物が溢れ出ないように神殿が結界を張り封じ込めているため、ダンジョンは神殿内にあるのだ。
初めてのダンジョン探索だというと、シスターが嬉々として教えてくれた。
「ダンジョンは神から与えられた試練です。試練に打ち勝てば、神はあなたに大いなる祝福を与えるでしょう。
ダンジョンは潜る人に応じて、招く階層を変化させます。未熟なものは浅層へ、強者はより深層へ。
ですからパーティで力量に差があると、バラバラに転送されてしまう恐れがあります」
「え、それじゃあパーティーを組んだ意味がないじゃないですか」
困惑したアユムは訊ねた。
「はい。ですからパーティーの場合は、手を繋いで入るのです」
そんな馬鹿なと思いシスターの顔を見れば、シスターはにこにこと笑みは絶やさないがその目は真剣そのものである。二人はやむを得ず手を繋いだ。
(いい大人がいい歳して……)
アユムは気恥ずかしさのあまり、レイの顔を見れずにいた。
「おい、早く行こうぜ」
後ろからレイの声がする。最初にダンジョンに入った人によって階層が固定されるそうなので、アユムから入ることになったのだ。
(こんなことを毎回しなきゃならないのか)
アユムは軽く絶望しつつ、「いまだけだ」と自分に言い聞かせて入り口を抜けた。
ダンジョンの入り口には薄い膜のようなものがあり、ひとたびそこを通り抜ければ、そこは一寸先も見えない闇だった。
アユムは火の灯を浮かばせる。ダンジョンの中は外よりも魔力に満ちているようで、いつもよりずっと魔法が使いやすかった。
ゆらゆらと揺れる炎が暗闇を舐めるように照らし出す。明滅する光の先に、いつ魔物が出て来やしないかとアユムは冷や冷やしていた。
しかしすぐ前にはレイがいる。顔は見えないが、浅層といえど油断なく周りを警戒しているその緊張感が伝わってくる。
「静かに」
ささやくような声でつぶやき、静止した。
レイが前方を指差す。そこには曲がり角があった。
何かと疑問に思い目を凝らすが、何もわからない。レイはすぐさま小さな火の灯をつくりだし、角の先へと飛ばした。
すると灯りに照らされて、隠れていたモノの陰が浮かび上がった。
それは気付かれたことを察し、踊りかかってきた。
ゴブリンだ。
2体のゴブリンがナイフと棍棒をそれぞれ持って、襲い掛かってきた。
慌てて身構えるアユム。しかしそこで異変に気付く。レイがいないのだ。
そうこうしている間にもゴブリンとの距離は迫る。アユムは無我夢中でゴブリンに切りかかった。
ゴブリンの振るう棍棒が音を立てて空を切る。
幸いシルバーウルフとの連戦レベルが上がっていたこともあり、以前よりも体は軽く動きもよく見える。アユムは何とか2体を倒すことができた。
肩で息をしていると、ぽっと明かりがつきどこからともなくレイが現れた。
「ダンジョンでは油断した奴から死んでいくぞ」
殴ってやろうかと思っていたアユムだったが、その真剣な表情を前に何も言えず、こぶしを降ろした。
(甘かった。レイに頼り切っていては駄目なんだ)
アユムは深く反省した。
それからもレイを先頭にダンジョン探索を続けた。
アユムも得意の風魔法を使って周囲を警戒したため、以降は不意を突かれることもなく攻略できた。
※
ダンジョンとは本当に薄気味悪いところだ。
アユムはしみじみとそれを感じた。魔物は倒されると魔石や極稀にドロップアイテムを残しさらさらと消えていく。
ゴブリン以外にも、二足歩行の犬に似たコボルトや、角の生えた一角ウサギも同じだった。
魔物が発生する瞬間にも立ち会うことができた。それは奇妙な体験だった。
一目見て、空気が淀んでいるのがわかった。凝ったような深い闇が見えるのだ。アユムは思わず立ち止まり、その場所をじっと見ていた。
不意に気付いたときにはそこにいた。
生まれたばかりのゴブリンは、目が合った瞬間に襲い掛かってきた。アユムはすべての魔物は、人間に対する殺意を持って生まれてくることを知った。
「そろそろ戻るか」
時計を見ながらレイがつぶやくと、アユムは深く息を吐いた。
獲物を警戒しながら探索するのは狩りで慣れていたとはいえ、ダンジョンとはやはり勝手が違う。もうくたくただった。
※
「レイ君が一緒とはいえ、よくこんなに」
にこにこしながらキラリは現金と明細を出してくれた。袋の中にはじゃらじゃらと銀貨が入っている。
アユムは満面の笑みでレイを見たが、レイは何でもないことのように前を向いている。
「これからもこの調子でお願いしますね」
じっと熱い眼差しを向けてくる。硬貨を受け取ったとき、手が触れていた。
ダンジョン探索初日はこうして万事うまくいった。アユムは上機嫌で宿へと帰るのだった。




