それぞれのダンジョンへの想い
(また外した)
もう何度目になるだろう。アユムが放った矢ははるか彼方にそれ、獲物はあざ笑うように走り去っていく。
ここのところアユムは狩りに出てもちっとも身が入らないでいた。薬草を摘みながら考えることといえば、先日レイに言われたことばかりだ。
(ダンジョンに潜る)
アユムにとって、ダンジョンは訳が分からない薄気味悪い場所だった。
どこまで続くかもわからない深い穴倉にひしめく魔物たちは、いくら倒しても決して尽きることはないという。
この街はそんな魔物を資源に成り立っている。
それに挑み、化け物染みた成長をする冒険者たち。アユムにはすべてが理解の範疇を超えていて怖かった。
※
「ダンジョンは莫大な富をもたらす場所です」
どうしたものかと悩むアユムに、ジミーは言った。
「ダンジョンには危険がつきものです。ですが魔石や様々な特質を持つ魔物素材、それらはあまねく繁栄をもたらすでしょう。
アユムも冒険者として生きるなら、もっと高みを目指すべきです」
ジミーはそれから、S級冒険者が達成した伝説について話してくれた。
それまで何の力もなかった少年がダンジョンで才能を開花させて一流の冒険者になる話
何の役にも立たないと思っていた力が、仲間と力を合わせることで唯一無二の力となった話
ドラゴンを倒し、使いきれないほどの財宝を得て貴族になった勇者の話
ジミーは目を輝かせながら次々と話してくれた。
アユムは遠い昔、子どものころに聞いたおとぎ話を思い出していた。まるで夢物語のような世界が、すぐそばにあることが信じられなかった。
※
「たくさんの奴が、目の前で死んでいったよ」
いつもの安い居酒屋で飲みながら、テッドは倦み疲れた顔で言った。
「暗がりを延々と進んでいると、自分がいまどこにいるのかもわからなくなってくるんだ。
ダンジョンの中は迷路のように入り組んでいるかと思えば、単調な直線が続くこともある。そこでつい油断してしまった奴から魔物に襲われ、いなくなっていく。
始めはいいさ。ゴブリンみたいな弱い魔物でも倒せば、小さくても魔石が手に入る。ゴブリンの魔石でも、売れば銀貨3枚にはなるから俺らも喜んだもんだ。
でも調子に乗って奥まで進んだのが駄目だったんだろうな。相棒はあっけなく死んじまった。
どんな魔物に殺されたのかはよく思い出せない。
わかるのは相棒が噛み殺されたこと。そして俺はそいつを見殺しにして生き残ったってことだけさ」
盃を持つテッドの手は震えていた。それを見られているのに気づき、テッドはさっと手を隠した。
「情けないだろ。いまでも思いだすとあのときのくちゃくちゃと仲間を噛みしめる音が聞こえる気がして、震えちまって仕方がねえんだ。
ダンジョンはそいつの本性を暴き出す。俺はもう、潜れない」
※
「ダンジョンはやる気のない冒険者の行くところではありません」
キラリは冷たくそう言い放った。
ここのところ薬草採集や有害動物の駆除を達成しても、キラリが対応してくれないことが増えた。いまも無理を言ったため怒っているのかもしれないとアユムは思っていた。
「ギルドからは有料ではありますが、魔物の情報開示やダンジョンの階層に応じた傾向と対策を公開しています。
ほかにも初日にお渡しした冊子にも書いてある通り、ダンジョン特有の罠に対する講習なども行っておりますから、興味があるなら受けてみてはいかがでしょうか」
「そうなんだ、ごめん知らなかった」
アユムの態度が気に入らなかったのか、キラリはキッとにらみつけて言った。
「ほかにも仕事がありますので、今日はもうこれでいいですか?
私、向上心のない男の人って嫌いなんです」
アユムはもう、どうしたらいいのか途方に暮れてしまっていた。




