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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
第2章 欲望と発展の街イナリ
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有害動物って何ですか?

 狩りに出てからというもの、困ったことや驚いたことは次々に出てきた。


 まず困ったのが、村と街では狩人の仕事はまるで違うということだ。


 村でクオンから教えてもらったのは狩りのやり方はもちろん、皮のなめし方、角や骨などを細工して商品として売るための技術だった。


 だから狩りを終えた後、作業スペースや必要な道具はどこにいけば手に入るのか女将さんに相談したのだ。しかし女将さんは厭な顔をして言った。


「そういうのはちょっと聞いたことないからわかんないね。


 悪いんだけど、部屋の中で作業をするのはやめておくれよ。特に皮のなめしはすごい臭いがするっていうじゃないか。うちにはそんな道具もスペースもないからね」


 困り果て途方に暮れていたが、レイがあっさりと解決してくれた。


「はい、討伐報酬としてウチで取り扱ってますよ」


 レイのアドバイス通り、キラリは何でもないことのように言った。


「わ、すごい。こんなに狩ってきてくれたんですね」


 にこやかに笑うキラリ。「だけど」と言いよどんでから言った。


「次回からは討伐証明ができる尻尾だけでも構いませんよ? もちろん毛皮をなめす前のものも買い取らせていただきますが」


 キラリは申し訳なさそうに見積書をすぐに出してくれた。そこには


 シカの毛皮:銅貨5枚

 討伐報酬:銀貨2枚


 と書かれていた。


「有害駆除に該当しますので、討伐報酬には補助金が上乗せされてこのお支払金額になります」


 キラリは当然のことのように話す。参考までにイノシシを含むいくつかの獣の見積もり価格を見せてもらったが、どれも同じようなものだった。


 獣はときに人里に降りて作物を荒らしたり、人を傷つけたりする。


 だから狩人がいるのだが、皮や肉は喜ばれず、人によっては安いからとその場に捨てていくこともあるという話にアユムは信じられない気持ちてでいっぱいだった。

 


 1年が過ぎ街の生活にも慣れたまたある日のこと、その頃にはもう通いなれた森を歩いていたとき、アユムはすぐに森の異常に気がついた。


 どこからともなく、血生臭さと毛が焼ける厭な臭いが漂ってくるのだ。


 厭な予感がしながら臭いを辿っていくと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 死屍累々。たくさんの獣たちの死骸が、道しるべのように転げられ放置されているのである。よく見ると、討伐証明部位だけは切り取られている。


 あまりに悲惨な光景に、アユムは唇を強く噛み、顔を顰めながらも臭いの元へ走り出した。すると臭いが強くなるにつれ、何やら笑い声が聞こえてきた。


 そいつの周りには、おびただしい数の獣の死骸があった。


 魔法により風を操り、逃げようとする獣は引き戻される。


 あるときは火で焼きつくし、あるときは水で包み込みゆっくりと息の根を止め、またあるときは土壁で圧し潰す。


 まるで魔法の練習をする幼子のようだ。


(こんな馬鹿げた魔法の使い方はあり得ない)


 よく見ると胸元には紫の光を放つ魔石がある。その怪しい光は禍々しく見えた。


 その光に照らされたそいつは、うまく獣を仕留める度に顔を歪めて笑っていたのだった。


 おぞけが走り足を止めていたアユムだったが、そいつがアユムの存在に気付いたそのとき、一瞬風の拘束が緩んだ。


 その隙に逃げ出したシカに「ちっ」と舌打ちをしながら火の魔法を放ったとき、アユムは叫ばずにいられなかった。


「やめろ‼」


 そいつは声に驚いたのか、手を止めた。その隙にシカはうまく逃げてくれたようで、思わずアユムは胸を撫でおろした。


「突然なんですかあなた。仕事の邪魔をするのはルール違反ですよ」


 不満を顔に全面に出しながらこちらを見ている。


「なんですかはこっちの台詞だ。お前何してるんだよ!」


「見ての通り、有害動物の駆除です。ギルドを介して正式な依頼を受けてますよ」


 イライラとしている様子を隠そうともせず、わけが分からないといった様子でそいつは言った。


「でもだからといって、こんな殺し方をすることもないだろ」


 目の前には無残に殺された獣の死骸が数えきれないほどある。これではまともに毛皮や肉もとれないだろう。


「あぁ、あなたは弓を使うんですね」


 そいつはアユムの背にある弓を見て、馬鹿にしたように笑った。


「それはすみませんでした。これでは当分この森では仕事がないかもしれませんね」


(そういうことじゃない。)


 アユムは怒鳴りつけてやりたい気分に駆られた。


「魔石を使って狩りをしたほうがずっと効率はいいのに。何故弓なんて使っているのかわかりませんね。

 

 まぁでも、それができないからこんなところで獣狩りをしているんでしょうけど」


「これは餞別です」


 そう言って足元にあるシカの尻尾を切り取って投げつけてきた。焼き焦げていて痛ましい。


 アユムは思わず顔を背けてしまったため、尾は地面に落ちた。


「なんだ、要らないんですか」


 見るからに不機嫌そうな顔をしながら歩いてきた。近寄った顔をよく見れば、歳もあまり変わらないようだ。


「用がないならもういいですか。早く次をこなさないとこんな仕事、割に合わないんですよ。


 おい、出てきていいですよ」


 そいつは急に森に向かって呼びかけた。


 すると明らかに年上だろう男が出てきた。歳は50代だろうか。卑屈な顔をしてにやにやと笑いながらアユムにまで頭を下げてきた。


「さっさと回収してください」


 汚いモノを見るように指示を出すと、男は獣から手際よく討伐証明部位を切り取っていった。


 しばらくすると、すべての部位の切り取りが終わったのか、「作業が遅い」とぶちぶちと文句を言いながらそいつらはその場から去ろうとした。


「おい待て、獣たちの亡骸はどうするんだ?」


 関わりたくない。そう思いながらもつい訊ねてしまったことをアユムはすぐに後悔した。


「知りませんよ。ほかの獣が食べるんじゃないですか?」


 こちらを一瞥することもなく、吐き捨てるようにそいつは言った。



「仕方ないことでもあるんじゃないか」


 結局あの後、アユムは大きな穴を掘るとそこに獣をできる限り埋葬した。


 帰る頃には身も心もくたびれ気持ちの整理もつかないままだったが、今日あったことについてつい愚痴をこぼすとレイは言った。


 その言葉が理解できず、ついムッとなりつっかかりそうになる。


「お前の気持ちもわかるよ。俺だってそいつのしたことはムカつく。


 でもギルドに依頼を出した人にとって、そいつは優秀な冒険者なんだ。


 獣は畑を荒らす害でしかない。肉や毛皮だって、いまじゃ魔物から採れる質のいいものが安く手に入る時代だ。


 そうなるとそんなやつが増えてくるのも当然かもしれないな。


 もちろん疫病の原因になるし、危険な獣を招く恐れもあるからギルドからは注意されるだろうけど、それだけだろうな」


「食べられるわけでもなく、ただ殺されていく。獣たちはただ生きるために食べているだけなのに」


 アユムはじっと自分の手を見つめていた。


(いままで僕がしてきたことは、一体何だったんだろう?)


 あいつの歪んだ笑顔が脳裏によみがえる。


(あいつと僕の違いなんて、あるんだろうか)


「だから人里に近寄れないように、魔法で大規模な結界を張るなんて話もあるそうだ。厭なことは皆遠ざけたいもんな」


 ぐらぐらと自分の立っている場所が揺らいでいるように感じた。それきり顔を伏せたまま何も言わなくなったアユムに、レイは言った。


「なぁアユム、これからもその悩みは消えないと思う。


 そのことで傷つくくらいなら、お前もダンジョンに潜らないか?」


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