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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
第2章 欲望と発展の街イナリ
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お金の使い道

「どうもこうも、そのままの意味だよ。


 ダンジョンに潜ったやつらは大抵すぐに死んじまった。あとは俺みたいにビビッて工場で下働きしてるやつがほとんどさ。


 レイやジミーみたいなやつは例外さ」


「……そんな」


 アユムは思わず席から立ちあがった。脳裏には村で何度も一緒に遊んだ子どもらの姿が思い浮かぶ。


「どうして助けてやれなかったんだ。皆一緒にいたんじゃないのか。どうして何もしてやれなかったんだよ!」


 レイやジミーは顔を合わせようともしてくれない。


「俺らだって必死だったんだ。村でぬくぬくと生きていたお前に何がわかるんだ。


 そんなに言うなら、村の皆はどうしたんだよ?」


 きっとにらみつけるテッドに、力を無くしたアユムは椅子に座り込んだ。


「お前だって守れなかったくせに」


「何で、何でそれをテッドが…。


 いや、テッドだけじゃない。ジミーも知っていたんだね。一体どうして?」


 はっとレイを見るが、レイは首を横に振っている。


「珍しいことじゃないんですよ、アユム」


 ジミーがおずおずと言った。


「田舎には魔物とまともに戦える戦力もなければ、キュウコ様の加護もない。危ういんです。


 災害や魔物の襲撃によって滅ぼされた村の話を、私たちは何度も聞いてきました。


 だからあなたがこの街に一人で来たと聞いたとき、覚悟はしていたんです」


「アユム、あれを出せ」


 レイがアユムの鞄を見ながら言った。屍龍の魔石を取り出し、ごとりと机の上に置く。レイとの打ち合わせ通りに。


 途端、二人の目が釘付けになっているのが見なくてもわかった。


「これが、村を襲った屍龍の魔石です」


「屍龍だと⁉」


 テッドががたりと立ち上がった。


「そんな馬鹿な。倒せるはずがない。軍が動くレベルの一大事だぞ」


「一体どうやって」とテッドがアユムに詰め寄るのを、レイが押しとどめる。


「村の御使いがクオンと力を合わせて倒したそうだ。生き残ったのはアユム一人だけだ。


 具体的な方法は秘事らしく、悪いが俺も知らん」


「そ、そうか」


 気まずそうに席に座りなおすテッド。


「しかしこの魔石はすごいぞ。この大きさと質なら、白金貨3枚は下らないんじゃないか。どうなんだ、ジミー」


 ジミーを見ると瞬き一つすることなく、食い入るように魔石を見ている。何度か名前を呼んで、やっとこちらに気がついたようだ。


「そ、そうですね。この魔石なら、白金貨3枚は十分お支払いできると思います」


 ジミーは気を取り直すように深く息をしてから座りなおして言った。


「まさかこれ程のものとは思いませんでした。


 アユム、ぜひこの魔石は私に買い取らせてくれませんか?」


「うん、今日はそのこともお願いするつもりだったんだ」


「なんでしょう? 何かほかにできることがあるなら何でも言ってください!」


「そうだよな、これだけあれば一生働かなくても食っていけるぜ」


 アユムはふるふると頭を振って言った。


「これを、村の復興に充ててほしいんだ」



 時は戻ってアユムたちがミゲルの武器屋を出た後のこと。


 アユムたちは魔石を売却した金の使い道について話し合っていた。言い出したのはレイだった。


「お前は魔石を売ったら、どうするつもりなんだ?


 色々と考えていたんだが、ヨーグの反応を見て確信した。あれほどの大店の社長が、理由なく登録したての冒険者に時間をとるわけがない。


 奴は屍龍の魔石を狙っている。粘れば、相当な金を出すはずだ。


 その金があれば何だって買えるし、もう働く必要だって無くなるかもしれない」


 しかしアユムは迷わなかった。


「この魔石は、村を守りたいと願ったサリナたちの思いの結晶だ。これを売ったお金で僕だけが得しようとは思えないよ。


 それよりも一日でも早く、カズイシ村が復興してほしい」


 レイはそれを聞いて呆気にとられたような顔をしていたが、すぐに笑いだし「それなら」と、いつジミーに魔石を見せるかについて話し出した。



「本当にそれでいいんですか?」


 ジミーはぽかんとした顔で聞いていたが、しばらく考え込むと続けて言った。


「滅ぼされた村は、そのまま放置されるわけではありません。


 人が減れば領の収益も減りますから村の数を一定に確保し続けるためにも、街から入居者を募り、開拓するのが通常です。予算も最小限のため、以前と同じ姿にはなりません。


 ですがこの魔石を売ったお金があれば、村を元通りの姿にすることは可能かもしれません。


 でもアユムはそれからどうするんですか?」


 心配そうな顔をしてくるジミー。アユムはゆっくりと頭を振った。


「僕ならクオンから学んだ狩人としての技術があるから大丈夫。


 皆も知っての通り、僕は迷い人だ。クオンやレイ、皆が支えてくれたから僕はカズイシ村の一員になることができた。


 あそこにはもう誰もいないけど、僕はただ、サリナたちが守ったあの村をこのまま無くしたくないんだ」

 

 皆はしばらく黙っていた。


「わかりました。私が責任をもって、カズイシ村を再建してみせます」


 ジミーが力強く言った。


「でも本当にいいんですか? 冒険者として生きるなら装備を整える費用も馬鹿にならないし、いつ怪我をして働けるかわからないから、そのための貯蓄だって必要です。 


 君が思っている以上にこの街で生きていくのは大変ですよ」


 テッドが何度も頷いている。


(仲良し兄弟の再来だ)アユムは困ったように笑うしかなかった。


 するとレイが「大丈夫だ、俺が何とかする」と言ってくれたのが嬉しかった。


 結局その日はジミーの奢りでお腹いっぱいになるまで食べて、大いに酔って宿に帰り女将さんに叱られたのだった。

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