浪費家の片鱗
硬貨のおおよその目安です。
白金貨:1億円
金貨:100万円
銀貨:1万円
銅貨:1000円
賤貨:100円
ジミーの仕事が終わるのを待つ間、アユムたちは街を歩きながら必要な道具を買いそろえることにした。
「明日からは森に出て狩りをするんだろう? 何か足りないものはないか?」
カズイシ村からは必要最低限の物しか持ってこれなかったため、アユムは使い慣れたナイフと弓、数えるほどの矢しか持っていなかった。
「そうだな、弓とナイフはあるけど、矢がそろそろ無くなりそうなんだ。矢羽や矢尻、あとついでに弓弦を売っているところは知ってる?」
「心当たりはあるが、矢なんて売っているところはたくさんあるぞ」
渋い顔をするレイ。しかしそれは、大抵のものは自作するしかなかったアユムにとって驚きだった。
「え、矢をいちいち買っていたら、儲けなんか無くなっちゃわない?」
「だったら矢をつくっている時間で、もう1体獣を狩ればいいじゃないか」
レイは何でもないことのように言った。
レイに案内された店は大通りから離れた場所にあり、小さな看板しかなかったためアユムはそこが商店だと気付かなかった。
しかし店内にはいままで見たことがないほどたくさんの種類の武具が乱雑に置かれている。
「なんだレイ、今日は随分と可愛いやつを連れてきたじゃねーか」
奥からのっそりと出てきたのは、いかつい顔をしているが背丈がアユムの半分ほどしかない小男。
「なんでぇ、ハトが豆鉄砲食らったような顔をして。ドワーフなんて珍しかないだろうに」
「親父、アユムは昨日村から来たばかりなんだ。そんな面でにらんだら驚くじゃねーか。
アユム、この親父はこれでもこの店の店長なんだ」
レイが間に割って入って言った。
「これでもは余計だろ。ワシはミゲル。親父でもなんでも好きなように呼べ。
そうか、お前が前に話していたアユムってのはそいつのことか」
ドワーフの店長ミゲルはジロジロとアユムの顔を見ると顔をしかめる。
「おいおい、こんなんで戦えるのか。それともここにはデートの一環で?」
「馬鹿言ってろよ、デートならもっと気の利いた場所を選ぶさ。アユムは村では凄腕の狩人なんだ」
「へー、こいつがね。そいつは悪かった。で、お前さんは何を使うんだ?」
「えっと、狩りに行くときは主に弓を使っています。だから矢羽や矢尻、弓弦が欲しいです」
二人のやりとりに圧倒されていたアユムはおっかなびっくり答える。
「弓弦はあるが、矢羽や矢尻の在庫はほとんどねぇな。必要なら職人の店を紹介してもいいが。
……まさか自分でつくるつもりか?」
ミゲルが眼光鋭くにらみつけてくる。
「村にいた頃は自分でつくるのが当たり前だったんです」
(あるものだけ買って、あとは現地で何とかするしかないだろうか)
アユムが悩み始めたのを見てミゲルがあきれたように言った。
「職人は材料だけ売るのは嫌う。自分の腕に自信を持ってるからな。
材料だけくれなんて言ったら叩き出されるぞ。ちょっと待ってろ」
ミゲルは商品棚をごそごそと漁ると、何本か矢を取り出した。どれも美しく仕上げられており、矢羽や矢尻には見たこともないようなものが使われている。
「この矢は本体部分のシャフトが木でできていて一番安い矢だが、鉄製の矢尻と、ワシの羽でつくられているから安さの割に攻撃力も安定している。
6本で銀貨2枚ってとこだな。
一番人気がこれだ。シャフトと矢尻が合金製で、矢羽にはハーピーの羽が使われている。
貫通性が高く、風にもぶれにくい。6本で銀貨5枚だ。
それからいま一番お勧めなのがこれだ。シャフトがミスリルでできているからちと重いが、その分魔力を通しやすく攻撃力も高い。
矢尻は細工師による魔刻印仕上げ、矢羽は空気抵抗を無くし、追尾性を高めるグリフィンの羽が使われている」
「4本で銀貨50枚とちと高いがな」ミゲルはがははと笑った。
次から次に出される矢に、こんなにも種類があるのかとアユムは目を白黒させた。
聞いたこともない矢羽や材質もあれば、矢尻に刻印を施して攻撃力を上げるなどアユムは考えたこともなかった。
一番最初に紹介された矢を手に取り、しげしげと眺めてみる。
この矢は、これまで見たどの矢よりも美しい。曲がりの一切ないシャフトに、上等な矢羽。研ぎ澄まされた矢尻も見事だ。
(もしこれを放ったら、どれほど美しく飛ぶんだろうか)
アユムはそれを想像するだけで楽しくなり、気付けば銀貨2枚を支払っていた。
それを見て慌てたレイが交渉してくれたお陰で、麻でできたそこそこ上等な弓弦をおまけしてもらうことができた。
弓弦にも色々な種類があるらしく、また引き込まれそうになるアユムをレイは強引に連れ出さなければならなかったのだった。
ミゲルも熱心に矢について説明を受けるアユムが気に入ったらしく、「いつでもまた来い」と言ってくれた。
去り際ちらりと見えたのだが、世界樹でできた金貨30枚というとんでもない矢もあり、アユムは目がくらむようだった。
去り際、レイに引っ張り出されるアユムに向かってミゲルが言った。
「いいか、この街ではそれぞれ専門の職人が分業して、最高のものをつくっている。この矢1本だって一人でつくっているんじゃねぇんだ。
だから坊主、お前は自分にできる一番得意なことだけしていればいい。
ま、それにはコッチが必要だがな」
ミゲルは指で硬貨の形をつくるとまたがははと豪快に笑っていた。
店を出た頃にはもう辺りは暗くなり始めていたため、二人はそのまま約束した店に向かうことにした。




