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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
第2章 欲望と発展の街イナリ
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レイって大人だな


「なんだコレ?」


 ヨーグ商店を前に、アユムは立ちつくして言った。レイはあきれ顔だ。


「なんだアユム、やっぱり何も知らなかったんだな。ヨーグ商店はイナリでも一、二を争う大店だぞ」


 ギルドの建物が一番立派だと思っていたアユムにとって、ヨーグ商店は衝撃の連続だった。


 高級感漂う店構え、立派な外観はもちろんだが、扉の前には見目麗しい男がいて扉を開けてくれる。


 怖気づきそうになる心を押し殺して中に入ると、ガラスケースの中に様々な装備や道具が展示されていた。


 一方アユムたちの格好といえば、アユムは狩りをするときの毛皮などを使ったものだし、レイの格好もつぎはぎだらけの布の服。


 明らかな場違い感に今すぐ帰りたい気持ちでいっぱいだった。


 アユムが思わず手で顔を隠していると、店員に声をかけられる。恐る恐る手を開いて顔を見ると、物腰は柔らかだが目が笑っていない。


「あ、あの。昨日ヨーグさんから話を聞いて来ました。カズイシ村のアユムと申します」


 すると店員は合点がいったように顔を輝かせると、「あぁあなたが」と言って奥にある部屋へと案内してくれた。




 これまた立派な応接室だ。


 手持無沙汰で困りながらとりあえずソファーに座って待っていると、すぐに紅茶とケーキが目の前に置かれた。


 おいしそうな甘い香りが鼻孔をくすぐる。


 今すぐ食べたいが、こんな高価なものを食べてもいいのだろうか。


 悩むアユムはかたわらのレイをちらりと見た。するとレイは落ち着いた様子でケーキをぱくついているではないか。


 アユムは拍子抜けした気分だったがそれならと覚悟を決めて、自分も食べてやることにした。


 甘さに心が安らぐ。本当においしかった。


「なぁレイ、どうしてそんなに落ち着いているんだ?」


 するとレイはあきれたように言った。


「向こうがくれるっていうんだからもらっておかなきゃもったいないし、何より失礼だろうよ。

 

 なに、俺たちはそれだけの物を持っているってだけのことさ」


 にやりと笑うレイ。そこにノックの音が響いた。


「お待たせしました」


 以前に会ったときも品質のよい服を着ていると思ったものだが、あれは旅用の軽装だったようだ。いまはスーツに似た高級そうな服を纏い、ますます隙がない。


「ヨーグさん、昨日の今日ですみません。先日はありがとうございました。今日は買い取ってほしいものがあって」


 すぐに立ち上がって魔石を出そうとするアユムを、間にすっと立ったレイが押し留めた。


「馬鹿、すぐに切り出す奴があるか」ささやくような声で叱られるアユム。


「初めまして、この街で冒険者をしております。攻種C級のレイです。以後お見知りおきを」


 おおげさまでに頭を下げ手を差し出すレイ、しかしヨーグは握手ではなく深い礼で返す。


「初めまして、この店のオーナーを務めておりますヨーグです」


 微笑を浮かべながら二人は顔を見合わせていた。アユムは二人のやり取りを見て、(大人だ)などとのん気に思っていた。


「アユム君、今日はちょうどいいときに来てくれました。じつは君に会わせたい人がいるんです」


「入っておいで」ヨーグが扉の外に声をかけると、意外な人物が入ってきた。


「ジミー、どうしてここに⁉」


 そこにはレイと同じくして村を旅立ったジミーがいた。


 ヨーグさんほどではないにせよ、身なりは整えられ、そして何より背筋を伸ばし前を見据えるその表情はまるで別人だ。


「久しぶりですね、アユム」


「彼にはいま、この商店の会計部門を任せているんだ。とても優秀でね、助けられているよ」


 ヨーグの紹介を受けて自信たっぷりにほほ笑むジミー。


「何かあったらこれからはジミーに言ってくれるといい。


 じゃあジミー、後は頼んだよ。今日は久しぶりに皆で食事にでも行くといい」


 ヨーグはジミーに銀貨を何枚か渡し部屋を去っていった。


「すごいねジミー。いつの間にこんな大きな店の商人になったんだ?」


「村にいたときから魔術と一緒に算術の勉強もしていました。アユム、覚えていますか?」


 ジミーはちょいちょいと手で招くと耳元でささやいた。


「祭りのとき、シスターとこっそり話したことがありまして、そのときに必要な本を譲ってもらったりしていたんです」


 レイはソファーに座って面白くなさそうにその様子を見ていた。


「久々に会ったんです。皆で一緒に今晩食事でもいかがですか。もちろんレイも一緒に」


「テッドはどうするんだ?」


 話は決まったとばかりに部屋を出ようとするジミーに、それまで黙っていたレイが背中越しに言った。


「もちろんテッドも誘いましょう」


 笑顔で振り向きジミーは言った。手元の銀貨をぎゅっと握りながら。

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