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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
第2章 欲望と発展の街イナリ
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レイとの再会

 登録を終えてギルドを出た頃には、辺りはすっかり夕暮れ時だった。


(これで僕も、明日からは冒険者として生きていくんだ)


 アユムは首から下げたカードと、クオンのお守りをぎゅっと握りしめた。


「な、何でお前がここに」


 するとそこに、懐かしい声がアユムの耳に届いた。


 驚いて声がするほうを見ると、そこにはなんとレイがいた。


 最後に会ってからもう3年以上になるだろうか。以前別れたときにはまだ残されていた幼さも抜け、キリリと引き締まった顔をしている。


 嬉しさのあまり駆け寄るアユム。

 しかしレイは信じられないものを見たようにその表情は強張っている。アユムは思わず歩みを止めた。




 言わなければならない言葉が、アユムの胸を締め付ける。喉元まで出ているのに、中々言葉にならない。

 いつか言わなければと思っていたことだが、まさかこんなに急にくるとは。


 それでもアユムは勇気を振り絞って言った。


「レイ、カズイシ村はもうない。サリナは……そこで亡くなった」


 レイが目を大きく見開いたかと思うと、その目は固く閉じられ、長い間動かなかった。


「…ごめん。何もできなかった」


 アユムはいたたまれない気持ちのまま、絞り出すように言った。レイがつかつかと近寄ってくる。アユムはレイの顔を見ることができず、顔を伏せた。


「ごめんって何だよ」


 左肩にぼすんと強い衝撃が走る。


「お前は無事でよかったよ」


 アユムがそろそろと顔を上げると、そこには乾いた笑いを浮かべるレイがいた。それを見た瞬間、アユムの目から涙がこぼれだした。


「ごめん、ごめん‼ 守れなかった。サリナを、村の皆を」


 どうせなら殴ってほしかった。憎んでほしかった。レイはそんなアユムの懺悔ざんげを魂が抜けたように聞いていた。


「アユム、いいんだ。お前だけでも生きていて、こうしてまた会えて嬉しいよ」


 レイの言葉は嬉しかったが、その視線の先にアユムは映ってないようだった。


「アユムはこれからどうするんだ?」


 アユムが落ち着いた頃、レイは胸元をちらりと見て問いかけた。


「じつはさっき冒険者登録を済ませたところなんだ。これから紹介された宿屋へ向かおうと思ってたんだけど」


「そうか…」レイは口元に指を当て、しばらく何かを考えているようだった。


(あぁ、この癖も変わらないままだ)


 どこか変わってしまったレイの、変わらない仕草に懐かしさを覚え安心する。


「なぁアユム、よかったら俺と一緒に暮らさないか?」


 突然の申し出に驚くアユム。聞き間違いかと思いレイを見るが、その顔は真剣そのものだ。


「お前この街のこと何も知らないだろ? 初めのうちは金もないだろうし。俺が色々教えてやるよ」


「レイがいいなら構わないけど」


 とまどうアユムを押し切るように「じゃあ決まりだな」とレイは言った。


 依頼達成の報告をしてくるというレイを待って、ギルドの前で立ち尽くすアユム。どうしてこうなったのかと思いつつ待っていると、レイはすぐに戻ってきた。




 レイの定宿「またたび亭」は、ギルドで紹介されたどの宿とも違う場所にあった。それを不思議に思って訊ねてみた。


「あぁ、ギルドが紹介できる宿は提携しているところだけなんだがどれも高くてな。もちろんそれなりにちゃんとしたところには違いないんだが。


 それよりここの宿は安くて飯も美味いぞ。大将と女将さんも親切だしな」


 またたび亭は大将と女将さんの2人で切り盛りしている小さな宿だ。


 レイが親切だと言っていた通り2人で泊まれるよう頼んだときも快く応じてくれたし、建物こそ古いが掃除も行き届いたいい宿だった。


「そんなひょろっとした体で戦えるもんかい。もっとお食べ」


 気風きっぷのいい女将さんは、見た目こそまるで違うが、どこかマリのことを思い出させる。


 そう言って振舞われた食事のメインはシカのシチューだった。


 もう二度と食べれないかもしれないと思っていたなじみ深い味は、つい涙がこぼれそうになるくらいおいしかった。



「アユム、村に一体何があったんだ?」


 部屋につき、扉を閉めるとレイは静かに言った。


 アユムはおぞましいあの日の思い出を話す。


 突然屍龍が現れたこと。屍龍の恐ろしさと繰り広げられた惨劇。それを倒すためにサリナやクオンたちがいかに戦い、死んでいったか。


 そして最期にサリナが言った言葉を。


 アユムは2つの神石と、屍龍の魔石を鞄から取り出し机の上に広げた。


「そうか、サリナは最期まで戦ったんだな」


 レイはそうつぶやくと机の上をしばらくじっと見つめていた。

 

「なぁアユム、この石俺にくれないか?」


 レイの手にはクオンの神石が握られている。初めアユムは断ろうとしたが、あまりにもまっすぐこちらを見つめるレイの真剣な表情を前に根負けしてしまった。


(僕にはこれがある)


クオンのお守りを握りしめた。


「すまないアユム。ありがとな」


 そう言ってレイはクオンの神石を大事そうに握りしめていた。


 すべてを話すと、疲れがピークに達したアユムは先に眠ることにした。


「あぁ、今日はすまなかったな。俺も今日は寝るよ。おやすみ、アユム」


 そう言って部屋の明かりを消すレイ。暗がりに包まれる中、神石の温かな明かりが部屋をぼんやりと照らしている。


 あまりの眠気に徐々に意識を失いながら、椅子に座って神石を見るレイの姿を見ていた。


 何故だろう、その目は石をにらみつけているようだった。

 

「おはよう」


 朝目覚めると、すでにレイが起きていた。昨夜と同じ、椅子に座ったままだ。


(まさか一睡もしていないのだろうか)


 そんな心配を振り切るようにレイは明るく振舞い食堂へと向かっていった。


「レイは今日、何をするの?」


 朝食をとりながら、アユムは訊ねた。今日の朝食はパンとサラダ、具沢山のスープだ。


「あーそうだな…」


 レイは心ここにあらずといった様子で答える。さっきからぼそぼそとパンしか食べていない。


「まずはアユムの装備を整えなきゃな。そのためには金が必要だな。俺も少しは持ってるが……。いざとなったらあの魔石を売るしかないな」


「あ、それならヨーグさんのところに行ってみてもいい?」


 何気なくアユムが言うと、レイが椅子から飛び上がった。


「ヨーグ商店? 何でそんな大店のこと知ってるんだ?」


 アユムは門でのいきさつを話した。


「そうか、ならヨーグの目的はハナからこれだったのかもな」


 ぶつぶつとつぶやきながら考え込むレイ。


「よし、あそこなら下手に買いたたかれることもないだろう。行ってみるか」


 覚悟を決めたように立ち上がったレイに対し、(何を大げさな)とアユムはあきれるのだった。

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