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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
第2章 欲望と発展の街イナリ
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冒険者登録 獣と魔物の違い

 街の喧騒けんそうに圧倒されながらも、何とかギルドに辿り着く。


 ギルドに行くなら剣と盾のエンブレムが目印だとは聞いていたが、周りと比較しても建物自体が立派だったので、遠目からでも一目でわかった。




 恐る恐る扉を開けると、中には大きなエントランスがあり、花が生けられた受付カウンターには美しい女性が座っていた。戸惑うアユムに向かって、女性がにこやかに笑いかける。


「こんにちは、当ギルドのご利用は初めてですか? 本日のご用件を承ります。ご依頼でしょうか、それともお仕事の請け負いでしょうか」


 …とんでもない美人だ。物腰は柔らかいのだが自信に満ち溢れ、それが彼女をより一層輝かせている。村ではあまり見ない化粧のせいで、その美貌は人形じみているようにさえ感じた。


「あ、あの。冒険者登録をしたくて」


 アユムが何とかそれだけ答えると冒険者用の部屋へと案内してくれた。どうやら仕事を依頼する人と請け負う人とで応対する部屋を分けているようだった。


 扉を開けると、中にはいかにも強そうな鎧を着た人もいれば、一見戦えるのかと疑問に思う村人と変わらない恰好をした人もいる。


 様々な人がひしめき合っていて、あまりの賑やかさにアユムは驚き立ちつくしていた。


 受付カウンターには何人かの職員が立ち、その前には自分の順番を待つ人で行列ができている。最初に案内された通り、アユムは慌ててスミにあるカウンターへと向かった。

 

 この時期は冒険者登録をする人も少ないのだろう。最初受付には誰もいなかったが、呼びかけるとすぐに一人の女性職員がやってきてくれた。


「お待たせしてすみません。本日担当させていただきます、キラリと申します。今日は冒険者の登録でお間違いないですか?」


 歳はアユムより少し年上だろうか。走ってきたため上気した顔は赤く、動くたびに花の香りがする。長い栗色の髪はつややかで、波打つようだった。


「そ、そうです。冒険者になりたくて北のカズイシ村から来ました。アユムと申します」

 

 キラリが目を見開いた。


「あら、もしかしてレン君と同じ村かしら?」


「あ、そうです。レンは僕の幼馴染です。ご存じなんですか?」


「ええもちろん、期待の新人として注目されてるわ。そう、あなたが噂のアユム君なのね。


 レン君、あなたのことを楽しそうに何度も話すから自然と覚えちゃったの」


「じゃあテッドやジミーも元気にしてますか?」


 初対面の人に知られている気恥ずかしさを誤魔化すように、アユムは訊ねた。


「うーん、ごめんなさい。その人たちのことは知らないみたい」


「受付は私一人じゃないから」と気落ちするアユムを励ますようにキラリは慌てて言った。


「さて、登録だったわね。登録には銀貨1枚が必要だけれど大丈夫? ならあとは所定の用紙に記入をお願いします」


 アユムは言われた通り銀貨を支払う。用紙には名前や出身、職歴、PRポイントと書かれている。


「あの、このPRポイントと職歴って何ですか?」


「それは私たちがどんな仕事を紹介できるのか参考にするものよ。


 ギルドには郵便配達から魔物の討伐まで、多種多様な依頼が集まるの。それを適切に案内するためには、今までにどんな仕事をしていたのか、得意なことは何なのか知る必要があるのよ」


 それならと、アユムは得意気に話し出す。


「カズイシ村では狩人をしていました。毛皮はもう全部売ってしまったからもうないけど、狩りの腕には自信があります。それから……」


 言いかけてからアユムは迷った。オオカミ様の御使いのことを話すのはためらわれた。もう人の死に携わることは厭だったし、あんな力が無くても十分生きていける自信があったからだ。


「そうねぇ」キラリは困ったように微笑し首を傾げた。


「それだけだと、ダンジョンの魔物討伐は厳しいかもしれないわね」


「え、でもどんなシカやイノシシも、弓矢や魔法を使って倒すことができます」


 てっきり冒険者というのは魔物を討伐するものだと考えていたアユムは、納得がいかず詰め寄った。

 すると背後からくすくすと笑い声が聞こえてきた。「これだから田舎者は」などと大げさに肩をすくめる者までいる。

「あのね、アユム君」キラリが宥めるように言った。


「森にいる獣と、ダンジョンにいる魔物はまるで違う生き物なの。はっきり言って、魔物は獣とは比べ物にならない程強いわ」


(そういえばヨーグさんは、屍龍のことを魔物と呼んでいた)


 アユムの脳裏にあの時の恐怖が蘇る。


「じゃあここにいる人たちは皆、魔物を討伐できる人たちなんですか?」


 アユムを馬鹿にしていた何人かは露骨に顔をそらした。


「いいえ、魔物を倒すことができるのは攻種Cランク以上の人たちだけよ」


 キラリによると、冒険者には様々なランクがあるらしい。


 大まかには戦闘職の攻種、生産職の創種、その他諸々の仕事を請け負う多種の3つに分けられ、それぞれにS~Eまでのランク付けが成されているようだった。


 キラリは品定めをするようにアユムを見た。その目が首から下げられたオオカミの牙でできたお守りに止まる。


「アユム君は話を聞く限り、攻種のランクを上げていくのがいいんじゃないかしら。経験を鑑みるに、攻種Dランクから始められると思うわ。


 Dランクだと魔物の討伐依頼は斡旋できないけれど、街周辺の森に潜む有害獣の討伐をしていけば、お金も貯められるしランクも上がるわよ」


 考え込むアユムを見てキラリはいたずらっぽく笑うと、カウンター越しに詰め寄り言った。


「ただし、仕事は無理のないものを受けること。失敗すると違約金やランク落ちもあるし、下手したら死にかねないんだから」


(ち、近い)


 顔がすぐ傍にある。突然距離が近づくことに驚くアユムを見て、キラリは可笑しそうに笑っていた。


「登録証をつくるまでには少し時間がかかります。まぁまずはどんな依頼があるのか、見ておくといいわよ」


「はいこれ」とキラリは1冊の冊子を渡した。そこには「初めての冒険者ギルド」と書かれている。


「そこにはこれまで話してきたことや細かい注意点などがまとめられているわ。ご不明点などございましたら、そちらをご覧ください!」


 壁際には3つの大きなボードがあり、沢山の依頼状が張り出されていた。


 どうやら冒険者のタイプによってボードも分けられているようだ。


 アユムはまず戦闘職の依頼が張り出されているボードへ向かった。


 依頼状には推奨ランクと、依頼内容、期日から達成条件、失敗したときのペナルティなどが書かれていた。


 Cランク以上の依頼状を見ると、討伐対象にはゴブリンやゴーレムなど物語でしか聞いたことのないようなものが書かれている。


 一方E~Dランクのものを見ると、田畑を荒らすイノシシやシカの討伐が書かれている。


 驚いたことにアナグマやハクビシン、ネズミといった、村では誰もが普通に退治しているようなものも依頼されていた。


 街ではそんなものにまでお金を払ってやってもらっているのかと、感心してしまった。


 ほかに何かないかと次は多種が張られているボードを見る。


 すると郵便配達からドブ掃除、中には魔石工場における軽作業なんてよくわからない依頼まで雑多に張り出されていた。


(さて、一体どんな依頼を受けようか)


 ボードを前に立ち尽くしていると、カウンターからアユムを呼ぶ声がした。


「お待たせしました。これがアユム君のギルドカードよ」


 差し出されたカードはトランプくらいの大きさだったが鉄製なので少し重い。表には名前とランク、裏にはよくわからない記号が書かれていた。


「カードには偽造防止の魔法処理が施されてます。ちょっとここに魔力を通してくれる?」


 言われた通りカードを握り魔力を通した。するとカードが綺麗な青色に光りだした。


「あらアユム君、上手に魔法を使うのね。魔力の流れがとてもスムーズだわ」


 キラリはアユムがカードに魔力を通す様子を目を細めながら見ると、驚いたように言った。


「魔法が上手く使えることはいいことよ。高位の冒険者になるなら、魔法を使えるようになるのが一番の近道なんだから」


「ま、まぁ魔法は森で狩りをするときによく使っていたので」


 気まずそうに口を濁すアユム。


「まぁいいわ。これで認証登録は完了しました。もうこのカードはアユム君以外の人には使えないわ」


「ちょっと貸してみて」と言ってキラリがカードを取り、アユムがよく見えるように目の高さまで掲げる。

 

 キラリが魔力を通すと、カードが今度は赤く光りだした。どうやらカードには魔力を識別して色を変えるようだ。


「あとはどの依頼を受けるかだけど、何かいいものはあった?」


 アユムは腕を組んで考え出した。


「うーん、いまはまだお金もあることだし、生活できる拠点を探そうと思います」


 するとキラリはお勧めだという宿屋をいくつか紹介してくれた。


(都会の人は親切だな)


 何から何まで丁寧に対応してくれたキラリにお礼を言って、ギルドを去ることにした。

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