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オオカミ様がいた村  作者: 降雪 真
第1章 田舎暮らしはカズイシ村で
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成人と旅立ち

 子どもは18歳になると成人とみなされ、多くの村の男は大都市イナリへと流れていく。


 ある者は愛する妻や家族のため


 ある者は果しえぬ夢のため


 ある者はほかに道もなく、旅立っていく


 村に残るものは畑が十分にある一人っ子や重要な仕事を担うものなど、ごくわずかだ。


 オオカミ様の御使いであるアユムは村に残ることになっていた。


 出発の前日、村では若者たちを送り出す祝いの席が設けられた。


 子どもとの最期を彩るために、めいめいの家で好物や手の込んだ料理が並んだ。


「俺はダンジョンに潜る冒険者になって、たくさんの金を稼いで、うまいもんたらふく食ってやる。


 こんな田舎の村にはない新しい物もたっくさん送るから、楽しみにしてろよな」

 

 テッドは骨付き肉をまるで剣のように振り回しながら言った。初めて飲む酒に気分も盛り上がり、気持ちはすでに冒険者だ。


 テッド以外にも、イナリへの夢を語るものは多かった。誰もが見たこともない都市を理想郷のように語る。


 しかしその中で、ジミーの顔色は優れず一言も発していないことにアユムは気づいた。


「ジミー、体調でも悪いのか?」


 ジミーはそれには答えず、ただうつむいている。


「ジミーはイナリには行かないかと思っていた」


 会話に困ったアユムはついそう言ってしまった。


 事実、ジミーの家はテッドと二人兄弟、ジミーが跡取りとして残ることもできたはずだ。いや、魔法の上手なジミーなら、職人としての道もあっただろうと思ったからだ。


「ば、馬鹿にするなよ!」


 ジミーは弾けるように言うと、目の前の酒をあおった。


「いまに見てろよ。イナリで僕は必ず成功してやる。勉強だってたくさんした。僕は一流の魔術師になるんだ」


 あまりの剣幕に、アユムはたじろいでしまう。気のせいか、ジミーの目が一瞬、アユムの胸元に注がれたように感じた。


 ジミーは酒に弱いようだ。顔を赤らめて机に顔を伏せると、それきりぶつぶつと何かをつぶやいている。アユムはその場からいそいそと抜け出した。


 辺りを見渡すとそこここで楽しそうに語らう人がいる。だがそこに見慣れたレイとサリナの姿がないことに気がついた。




(どこに行ったんだろうか?)


 どこかそわそわとした思いを胸に、アユムは2人を探して歩き回った。すると人気のない場所に差し掛かった辺りで、レイの声が聞こえた。


 アユムが声を掛けようと角を曲がると、2人が抱き合っているのが見える。


 アユムは慌てて身を隠した。よく見れば、サリナは泣いているようだった。


 その後言葉を交わすことなく、サリナは去っていった。レイは長い間、立ちすくんでいる。どうしたものかと慌てふためくアユムに、レイが気づいた。


「アユムか。なんだ、見てたのか?」


 レイは困ったように笑っている。観念したアユムはレイの元へ行った。


「サリナに振られちまったよ」


 遠くを見ながら、寂しげに笑った。


「村を出ていく俺にはついていけないってよ。そりゃそうだよな」


 レイの顔が苦し気に歪んだ。


「この村にはアユム、お前がいる。だから……」


 レイはアユムの手を両手で強く握りしめた。


「サリナのこと、母ちゃんと弟たちのこと、そして村のこと。頼んだぜ」


 しばらくアユムの手を離さなかった。かと思えば、ぱっと手を離し言った。


「まぁ見てろよ。イナリで一番の冒険者になって、見たこともないようなお宝も持って帰ってきてやっからさ。


 都会じゃ成功すれば、ずっと夫婦2人死ぬまで離れることなく暮らせるらしい。夢みたいな話だよな」


 そう言ってレイは二カッと笑った。


 翌日、レイたちはイナリへと旅立って行った。

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