アユムの在り処
神石の使い方にアユムが慣れ始めた頃、もはや通い慣れた道を帰る途中で、後ろから呼び止める声がした。
声が聞こえた方向へ振り返ると、そこには壁にもたれかかったレイがいた。
久しぶりに会うレイにアユムは嬉しくなり笑いかけるも、レイはこちらをにらみつけ動かない。
「ちょっと来てくれ」
(突然何だろう?)
アユムはわけが分からないままレイについていく。着いた先は見覚えのある路地裏だった。
「…なぁ、最近どうなんだよ」
レイがぶすっとした調子で尋ねてきた。
「最近って……ヨミばあさんにどやされてばっかりで大変だよ。この前なんて……」
ピリピリとした空気を何とかしようとおどけて話すアユムの会話を遮るようにレイは言った。
「いやそういうことじゃなくてさ」
レイは頭をかきむしりながら、叫ぶように言った。
「あぁもう、お前は一体どういうつもりなんだよ?」
「サリナのことだよ、これだけ言ってもまだわからないのか」とレイはアユムに詰め寄った。
「お前どういうつもりだよ。最近じゃ村の奴ら皆が噂してる。迷い人のお前がサリナの婿になるんじゃないかって」
レイはアユムの肩を掴み、せきを切ったように話し出す。肩を掴む手は痛いほどに強かった。
「オオカミ様の御使いとして修業しているのも、将来2人が結婚するためだって、皆言ってる。サリナに聞いても何も答えちゃくれない。
おかしいだろ? 俺お前に前言ったよな? 俺サリナのことが好きだって。俺お前に言ったよな。
なのにおかしいだろこんなの」
レイの声は切実で、こちらを見つめる瞳は潤み、すがりつくようだった。
「ごめん、こんなこと言うつもりじゃなかった」
レイはそう言ってぱっと肩から手を離した。
(こんな顔をさせたいわけじゃなかったのに)
レイのその姿はアユムの胸を締め付ける。自分の存在がうとましく思えた。
「レイ、僕はサリナの婿にはならないよ。結婚なんて、僕には想像もつかない。僕は迷い人だし。……僕はただ、クオンと一緒に狩りをして生きていければそれでいいと思うんだ」
(僕はいまどんな顔をしているのだろうか?)
はっとしたような顔をしたレイの顔が、さらに悲しそうに歪むのを見た。
(僕は正しく言えただろうか)
「そんなこと。そんな悲しいこと言うなよ」
レイが叫ぶように言う。
「お前はもう仲間だよ。仲間なのに、俺は……ごめん。アユムごめん」
レイはそう言って頭を振り、逃げるように走って行ってしまった。




