それぞれの将来
「レイはいいよな。宿屋を継げばいいんだから」
いつものメンバーと遊んでいたある日、テッドがぼやくように言った。
「あんなボロ宿のどこがいいんだよ」
レイは心外だとばかりに肩をすくめた。
「客なんて、飯食いに来る村のばあちゃんばっかなんだぜ。泊まりに来るよそもんなんて滅多にいねぇ」
「確かにな」と言って2人は笑いあっている。
「でも、それだってやることがあるだけいいじゃないか。僕らなんて、畑仕事をやるしかここじゃ生きていけないんだから」
ジミーがつぶやいた。それを聞くと3人は顔を合わせてため息をつくのだった。
アユムは会話に参加することができず、居心地の悪い思いをしていた。
(将来のことなんて、考えたこともないや。)
クオンと一緒に森や山に入って狩りをする。アユムはそんな日がずっと続くのだと信じてやまなかったし、それ以外の日々なんて期待もしてなかった。
そんなアユムの様子を横目に見て、レイが言った。
「でもよ、だから皆都会に行くんだろ」
「そうそう、都会じゃ夢みたいな生活が待っているらしいじゃねえか。うまい酒にうまい飯、見たこともないような遊びもたくさんあるってよ」
陽気に話すテッド。そこに「誰も帰ってこないけどね」というジミーの言葉が重く響いた。
「男は都会に言って出稼ぎをする。そんなのどの村でも当たり前のことじゃねぇか。だから生まれてくる子どもに仕送りができてその仕送りで俺らは食っていける。そうだろ」
レイは誰にともでもなく言った。
「さ、次は何して遊ぼうか」
レイの明るい声に、その話題は打ち切られた。しかしその後も皆気分がそぞろで盛り上がることもなく、その日は早々に解散することになった。
帰り道、レイと2人きりになったアユムは訊ねた。
「レイは本当に宿屋を継がないの? あんなにいい宿屋なのに」
レイはしばらく無言で歩いていたが、くるっと振り返って言った。
「俺も母ちゃんがやってる宿屋が好きだよ。当たり前じゃんか。だけど俺には弟がいる。誰かがきっと継いでくれるだろうさ。それでいいんだ」
レイの顔は清々しく、ためらいなど欠片もないように見えた。レイはすたすたと先を歩いていく。
(皆将来のことを考えてるんだ)
アユムは自分が取り残されたような気分になるのだった。
(僕はどう生きていくんだろう?)
その日以来そのことが頭にしこりのようにつきまとって払えずにいた。




