クオンの語り オオカミ様との邂逅
その冬アユムはクオンと一緒に何度も森に入った。
普段物静かなクオンも、何故か外で2人きりのときは饒舌になることがあった。
その話をしてくれたのも、雪が強く吹雪いたため洞窟に閉じ込められたときだった。
「狩りをしていると何日も森で過ごすことがある。俺は何度かオオカミ様を見たことがあるよ」
クオンは遠くを見るような目をしていた。
「その日も一日中吹雪が吹き荒れて、洞窟の中から動けずにいた。寒さのあまり、凍えそうな日だった。
動けずにいると、周りの音がどんどん大きくなっていくんだな。オオカミ様の遠吠えが、いつもよりずっと大きく聞こえた。
俺は先代からもらったお守りを握りしめながらじっと息を潜めていた。
少しずつ近づいてくる遠吠えに身を固めながら、あと少しで俺のところまで来る。そう確信したとき、近くでシカの鳴き声が聞こえた。
ぱっと外を隙間から見ると、群れからはぐれたのか、1頭のシカと、何頭ものオオカミ様が駆けているのが見えた。
あとはあっという間の出来事だったよ。
何頭かが回り込んで吠えると、怯えたシカが立ち止まり、そこを一際大きなオオカミ様が喉元に飛びついて仕留めた。
シカの息の根が完全に止まったとき、顔を上げたオオカミ様と目が合ったんだ。
あれは恐ろしい顔だった。血に塗れ、大きく裂けた口がにっと笑ったように歪んだのを見たんだ」
クオンは怖がらせるでもなく、淡々と語る。そのとき遠くで、何かの遠吠えを聞いた気がしてアユムはクオンに抱き着いた。
「あれはオオカミ様じゃないよ」
そう言って優しく頭を撫でる手はごつごつして動きもぎこちない。アユムはそっと目を閉じてその感触を味わった。




