味噌づくりは強制参加です
凍てつくような寒さが村に訪れた頃、村中の人が集まり、マリの宿屋で「味噌づくり」が行われた。
使われたのは村で採れた大豆と外から買い求めた塩、それに加えて大事なものがもう一つあるという。
「わかるかい?」そう言っていたずらっぽくウインクするマリ。そこにサリナたちがリアカーを引いてやってきた。
「今年はとくにキレイに仕上がったよ」
村人がリアカーに積まれた袋を開けて口々に歓声を上げる。そこにはパラパラと乾燥した米のようなものが入っていた。よく見ると表面がうっすらと白い。
「これはお前さんが見つけた稲霊から生まれたもんさ」
「でも僕が見つけたやつとは色が全然違うし、こんなにたくさん無かったよ」
アユムは戸惑いながら答えた。
「正確にはこれは稲霊の子どものようなものなんじゃ。
祭りの日、オオカミ様の祝福を受けた稲霊は、米と交わり新たな命を生み出す。それを繰り返し増やしたものがこの糀というものじゃ。
これを使ってつくられる味噌は、自然の恵みとオオカミ様の加護を宿すありがたいもの。
だからこそ今日は村にとってとても大切な日なんじゃよ。くれぐれも手を抜くことのないようにな」
そう言ってキッとにらみつけるヨミの鋭い眼光に身をすくめた様子に満足したのか、ヨミは知り合いの元へと去っていった。
「さ、皆力を貸しておくれ」
威勢のいいマリの掛け声とともに、味噌づくりは始まった。
まず最初にしたのが、前日から水に浸けておいた大豆を大釜で茹でることだ。
「出来損ないの豆が混じってると、母ちゃんがどやすんだよ」
ハキハキと動くマリの陰で、この日のために豆の選別をしたというレイは目の下に大きなクマをつくっていた。
「来年はお前にも豆の選別をやってもらうからな」
アユムはレイに来年の自分の姿を見て、ひくひくと顔を引きつらせた。
火は3時間以上燃やし続けなければならず、その間火の番は主におばあちゃんと子どもの仕事だ。
間伐した木や拾ってきた薪を時折くべながら、魔法で風を送ってやる。
子どもはすぐに飽きたり、逆に気合を入れすぎてばててしまうので、監督するばあちゃんの指示は重要なのだ。
途中おやつとして出された芋はほくほくとして美味しかった。
パチパチと音を立てながら薪が燃える。顔を焦がされるような思いをしながらもアユムは火を見つめ、途切れないように注意した。
火はまったく生き物のようで、食べ物となる薪をくべて風を送ってやると喜んで火勢を増す。だが逆に薪を詰め込みすぎて風通しが悪く息ができなくなったりすると、火は弱くなってしまう。
アユムは試行錯誤しながら薪を組むのも好きだった。
さらに燃え尽きた木は、取り出して水に浸け炭として再利用するのだが、水に浸けたときに「ジュッ」と音を立てるのが面白くて、まだ早いまま水に浸けて見知らぬばあちゃんに怒られたりもした。
大豆が茹で上がると木桶に移していく。
大量に茹で上がった大豆は、試しにつまみ食いしてみるとそれだけでおいしい。
「毎年これが楽しみなんだ」レイはつまみながらそう言って笑っていた。
風を送って少し冷ましたら、その間に足を綺麗に洗えという。
一体何をするのかと思えば、大豆をなんと足で踏みつぶすのだそうだ。
アユムは驚きつつも、レイのやっている通りに桶に入る。火傷するんじゃないかと熱さに思わず跳ね上がりながらも、我慢しながら踏み続けた。
大豆が潰れるぷちぷちとした感触が足の裏から伝わってくる。
楽しくなってきて思わず辺りを見渡せば、大人も子どもも皆楽しそうに笑いながら踏みつぶしている。
「もっと気合入れて踏みな」そんなマリの叱咤激励を受けながら、力の限り踏み続けた。
豆を粗方潰したら、そこに塩と糀を混ぜていく。
混ぜていくとだんだん固くなっていくので、耳たぶくらいまでこねていく。次に混ぜ合わせた大豆は手のひらよりも少し大きいくらいに丸め、保存用の桶に叩きつけるようにして入れて詰めていく。
空気が入らないようにするのが重要らしい。あとはフタをして、重しを乗せれば完成だ。
「ねぇ、いつこれは食べられるの?」
ワクワクしながらマリに尋ねるとマリは「3年くらいかねぇ」と笑って言った。
「そんなにかかるの!?」
肩を落とすアユムにマリは言った。
「何事も、焦っちゃいいものはできないのさ。
だから毎年、来年以降のことを考えて仕込みをしなきゃならないんだ。
さ、これから3年前につくった自慢の味噌料理を皆で食べるよ。しっかりと寝かせた味噌の美味しさ、たっぷりと味わいな」
その日のご飯は塩むすびとイノシシ肉を使った豚汁というシンプルなものだったが忘れないおいしさだった。
糀は各家庭で使うらしく、希望者は持って帰れるそうだった。クオンも酒造りに使うらしく、味噌樽と一緒にいそいそと持ち帰っていた。




