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「求人は、誰かを救えると思ってるので」

 俺とカレンは路傍の石ぐらいどうでもいいレンズさんの感動にひとしきり突き合った後、まじめな話の席につくことができた。


 ふう、これからはレンズさんの薄い本の扱いには気を付けなければならない。


 つか、これほどまでに好きなら今度遠出したときにでも別なものをプレゼントしてあげようかという思考にさえなる。


 ……ん? 普段の俺だったらこんなことは考えない気がするが。


 前カレンに言われたことが印象的だったからか、まあ誰かのためにできることがあるならしようか、みたいなことを想っているのだろうか。


 なんだかんだで、あいつから影響を受けてちょっと変わってるのかもしれない。


 若いのに生意気な奴だ、大人の価値観を変えてくるとは。


 ただ、そういう若者は素敵だなと思う気持ちもある。


 ま、今はそんなこともどうでもいいな。


「二人とも、おそらく材料調達の状況を確認しに来たんだろう?」


「ええ、それもあります」


「そうか、別の用事もあったんだな。そちらも後で聞こう。まず、材料調達の方だが、順調だ。あと3日ほどあれば必要なものはすべてそろうだろう。まあ、田舎のしがない農業資本家にはかなり痛い出費だったが」


「ありがとうございます!!」


 カレンはがばっと頭を下げる。


 俺も控えめだから頭を下げておく。


「何、契約したことはちゃんとやるさ。それに」


 そういってレンズさんは俺の方を見る。


 え、まさか俺がレンズさんの薄い本を分解したことがばれた説isある?


 やべぇと思いながら俺は目をそらす。その反応の方がヤバいだろ完全に。バレるぞガチで。


「アルの錬金術が本当に役に立つ時が来てよかった」


「え?」


「君の才能は見事だが、惜しむらくは君自身野心や他者貢献の気持ちがなく、誰かのために錬金術を使うという発想がなかったことを、少し悲しく思っていたからな」


「あー、確かにそうですよね……」


 なんだ、その話ね? わかってた分かってた、俺別にビビってないし? ビビりすぎてちょっとおしっこもらしかけたりとかしてないし? ビビったんじゃなくてチビっただけだし? それ漏らしてんじゃねえか。


「君の錬金術は君が思っているほど大したことがない技術ではないし、もっと多くの人に貢献できる技術だからな。これからもカレンといっしょに何か新しいことをしていってくれ」


「わかりました」


 まあ、錬金術は俺自身が楽しくてやってただけだからな。そういうことは特に考えてなかったが。


 これからはちょっと意識をしながら生活をしてみよう。


「ただ、おじさんの錬金術はレベルが高すぎて、この世界のバランスを崩すから使うのはほどほどにするよ?」


「ん? そうなのか? 工場をサクッと作ってほしいと依頼してるのにほどほどなのか?」


「ほどほどの基準は人それぞれだからさ……」


「目を伏せて『みんな違ってみんないいんだ、いいね?』みたいにごまかすのは止めような?」


「まあでも、私も考えながら依頼してるよ! スマホを作るなら基本的にこの工場とかなしで、もっと別の場所を作ってもいいわけだしね。前レンズさんに話を聞いた時、こういう経路で産業を発展させていった方が結果的に多くの人にメリットはありそうだなと思ったから、こういう感じでやってるわけで」


「え、この工場スマホを作るためにいらなかったのか?」


「うん、まあいらないと思うよ?」


「そうか。割とスマホとやらが手元に来るのを楽しみにしてたんだけどな」


「それはまだまだだいぶ先だよ。ていうか、私とおじさんが生きてる間に実現できない説さえある」


「マジかよ、運気が上がる水晶買わされて騙されたって言ってる人の気分なんだが……」


「そんな悪徳ビジネスがこの世にもはびこってるんだね……」


「俺はそんな悪徳ビジネスの被害者になった気分だと言ってるんだがこいつまったく気にしてないぞ、心臓に毛が生えてるのかな?」


 俺のちくりと痛いはずの発言をそよ風のように流したカレンは全く気にせずレンズさんに話を振る。


 おじさん悲しいよ、寂しすぎてうさぎだったら死んでるよ? あと、場合によってはプレイボーイも死ぬ可能性ある予感がした。べ、別にロゴマークがうさぎだからなんて思ってないんだからね、直感なんだからね!


「あと、レンズさん、一個お尋ねしたいことがあったんですが」


「ん、なんだろうか?」


「救済堂という施設に求人を貼りだすことができると思うのですが、そこはどれくらいのコストで出すことができて、どういう人が見て求人応募することが多いかわかりますか?」


「ほう、工場の稼働人員の求人はそこでする予定なのか?」


「そうです。できれば職を失ったりしている、社会的にディスアドバンテージを抱えているが、色々と話せば心を開いて、将来的に私たちと一緒に活動してくれそうな人を呼び込みたいなと思っています」


 そういって言葉を切るカレン。


 そして、あとに一言だけつないでいく。


「求人は、誰かを救えると思ってるので」


 その言葉を言うカレンの瞳には確かな力が宿っていた。


 炎の揺らめきが瞳に浮かんでいるかのようだった。


 なるほど、失業者の雇用先として、人員を吸収しようと考えているわけだ。


 カレンは自分のやっていることを社会貢献に繋げようとする傾向が強いのかもしれない。


 俺も少し見習わないといけないところかもしれないな。


 レンズさんの方を見ると、ゲンドウポーズを繰り出しながらも口角を持ち上げて笑っていた。


 瞳が冷たい訳ではなく、しっかりと熱を帯びた瞳でカレンを見ているので、馬鹿にしたりしている訳ではなさそうだ。


 まあ、レンズさんも経営者で人を雇う立場の人間として思うところがあるのだろう。


 そこまで深くはまだ俺には分からないところだ。


「そうか、ただ、まあそういった人材がそこから集まってくるかは分からんぞ? コストは基本的にかからない、国庫資金で負担されながら運営されている。求人に来る人は、君の言っているような失職者も多い。仕事を探している、という状態になっている人は基本的に全員あそこに行っていると認識していい。ただ、自分で直接雇用先を見つけて雇ってもらうように行動している人はその限りではない」


「具体的にこういうことをやってみたいな、とかがある子は、自分で職場を見つけてそこに行く、という感じなんですね?」


「そうだな」


 カレンはなるほどーと考え事をする。


「ちなみに、どういう条件を満たす人しか出せない、とかはあるんでしたっけ?」


「特にない。事業を持っていて、そこを証明できるよう国に届け出をしていればそれで行うことができる。会社としての登録をしていれば問題ないということだな」


「届け出……」


 カレンは遠い目をした。


「私も会社として登録をして活動を行う必要があったから登録はした。だから一緒に登録しに行くか?」


「行きます!」


 カレンは届け出がかなり億劫だったようですぐに食いついていた。


 まあ、そういうことは大事だよな。


 俺たちは工場建設が終わり次第、届け出と求人を出しに行くことにした。

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