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第六話 学園祭ニ日目


目覚ましの音で、俺は目を覚ました。


「ん……」


なんだか体が重い。横を見ると、ローナの顔がすぐそこにあって心臓が跳ね上がった。驚いて離れようと思ったが、


「むにゃむにゃ……」


ローナが俺を捕まえていて離れられない。

ん? ふと、俺たちの頭上に、水の塊がフワフワ浮遊しているのに気づいた。ベッドの横で腕組みをしている彩先輩に気づく。


「え、ちょっと待って、俺は起きーー」

「遅い」


彩先輩が指を鳴らすと、二度目の水の張り手が俺たちを襲った。


「おはようございます!」


ガバッと起きたローナが寝ぼけながら言う。

最初は驚いた俺も、二回目ともなれば平静でいられた。というより、慣れてきたというべきか。俺は、濡れた顔を手でぬぐった。







「それじゃあ、各自問題を起こす生徒がいないよう見回りをお願いね」

「「「はい」」」


学園祭がもうそろそろ始まるという時間帯になり、生徒会室に集まっていた役員は、彩先輩の号令に返事をした。ハルコが先に席を立ち、部屋を出ていく。ナオキも立ち上がり部屋を出ようとした時、彩先輩がナオキを呼び止めた。


「笹倉くん。ちょっといいかしら」

「はい?」

「昨日、喧嘩していた生徒を止めたそうね。凄いじゃない」

「いえ。すぐに収まったので」


ナオキは頭をかいて謙遜した。


「でも、アナタが怪我をしたら危険だからこれを持っていて」


そう言って彩先輩は自分の着けていたネックレス外し、ナオキに差し出した。


「なんですか?これ」

「お守りよ。あなたは少し正義感が強すぎる所があるから、これを着けていなさい」

「いえ、いいですよ」


彩先輩のネックレスは細い鎖に、ハートの形をしたガラスがつけられた可愛らしいネックレスだった。女性物というのが嫌だったのか、はたまた遠慮しているのか、ナオキは断った。しかし、


「着けなさい。会長命令よ」


彩先輩の有無をも言わさぬ口調に、ナオキがたじろいだ。威圧感たっぷりの彩先輩の背後には、メラメラと炎が燃えているように見える。


「あれは断われませんね」


ローナがボソッと呟いた。ナオキには頭をかいて、


「それじゃあ……借りさせてもらいます」


そう言って、ネックレスを受け取ると、自分の首に着けた。


「それじゃあ、なにか問題が起きたら連絡しなさい」

「分かりました」


部屋を出たナオキを見て、ローナは俺を見た。


「さあ、それでは私達も行きましょう〜!」

「ちょっと待ちなさい!」


意気揚々と部屋を出ていこうとするローナに、彩先輩が口差しした。


「わかっているわよね?」


先程のナオキの時とは比べ物にならないほどの目力で、彩先輩がローナに尋ねる。


「…………はい」

「よろしい」


子犬のように潤んだ瞳でシュンと肩を落として部屋を出るローナ。まるで、母親と子供のようだ。


俺とローナは自分たちのクラスや演劇の出し物を見回った。だが特にこれといって問題が起こる訳でもなく、今日も何の収穫も無いまま終わると思ったその時、事件は起きた。三年の校舎を周っていると、


「生徒会役員! Bクラスが大変なんです!」


一人の女子生徒がローナに駆け寄ってきて言った。顔は青くなっている。


「Bクラスですか⁉」

「はい、もう私どうしたらいいかわからなくて……」


女子生徒はパニックになっている。


「わかりました。とにかく、行きましょう!」


俺とローナは三学年のBクラスに向かった。クラスに近づくと、遠くからでもクラスの前に野次馬が大勢集まっているのが見えた。


「通ります! すいません」


ローナが野次馬を抜けてBクラスに入ると、俺は言葉を失った。


このクラスは喫茶店をやっていたようで、来客用のテーブルや椅子があるのだが、それらは全てひっくり返り、コーヒーやジュースのカップが床に散らばり、教室内にいる二十人ほどの生徒が取っ組み合いの乱闘をしている。


「なんの騒ぎですか!」


ローナが教室内に入り、


「おい、いいかげんにやめろ!」


乱闘を止めようとするナオキの姿に気づいた。ナオキが取っ組み合いをしていた男子生徒の間に入ると、


「邪魔すんじゃねぇ!」

「ぐっ!」


男子生徒は止めに入ったナオキに逆上し、ナオキの顔を殴った。

そして、よろめくナオキの胸ぐらを捕み、地面に押し倒した。さらにナオキを殴ろうと、男は腕を上げた。


「ナオキくん!」


ローナがナオキの上にまたがる男子生徒の腕にしがみつくと、


「やめて下さい!暴力はいけません!」

「触んじゃねぇ!」


ローナの後ろから、興奮した別の男がローナに近寄った。どうやら、ローナが腕を掴んでいる男の仲間らしい。男は拳を振り上げた。


ーーーー危ねえ!


俺は咄嗟にローナの肩からジャンプし、男の手を思いきり噛んだ。


「いってぇ!」


男は手を押さえると、驚いた顔で手を確認した。


「コイツに手ぇ出すんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!」


俺がそう言うと、男は固まった。もちろん、手を噛まれた男に俺の姿は見えていないので、聞こえるのは声だけ。


「どう……なってんだ……?」


その男はわけがわからないというようにその場に佇んでいたが、その他の生徒が未だ乱闘をしていて、騒ぎは収まるどころか悪化する一方だ。そんな中、ナオキの声が響きわたった。


「お前たち皆、退学になりたいのか!」


その一言で、皆の動きが止まった。確かにこの状況が酷くなれば、怪我人も出て最悪、学園祭中止にもなりかねない。その責任を取り自主退学になるケースもなくわないが、たかだか喧嘩のいざこざで退学になるのも割に合わないと思ったのだろう。目の色を変えていた男たちは冷めたように悪態をつくと、教室から出ていく。


「大丈夫ですか!?」


ローナが座り込むナオキに駆け寄ると、ナオキは口を手で押さえていたが、その手から血が滴り落ちた。


「おい、なにがあったんだ! これは……!」


騒ぎを聞きつけた彩先輩や、金丸がかけつけてきた。教室の惨状を目の当たりにし、言葉を失っている。

彩先輩が、ローナとナオキの元に駆け寄り、怪我をしているナオキに言った。


「無茶するなといったでしょう」

「すみません」


ナオキはそう答えて苦笑した。


「どうやらクラス間で、お客の数を競って賭けをしていた生徒達が、ズルをしたといちゃもんをつけてきたらしく、段々と騒ぎが大きくなってしまってしまったようです」

「問題を起こした生徒が誰か分かるか?」

「聞いた話しによると、三年A組のーー」


後から来たハルコが、周りの生徒に事の発端を聞いたようで、金丸に説明をしている。彩先輩が、ナオキの肩に手を置いた。


「笹倉くん、良く頑張ったわね。保健室で手当てを受けてきなさい」

「はい。あ、生徒会長」

「ん?」


ナオキがなにやら彩先輩と話している。ローナは立ち上がり、その場から離れると俺にだけ聞こえる声でコッソリ話した。


「駿之介くん、今回の暴動、昨日の時と同様に悪魔が関係しているかもしれません。私達は見回りに行きましょう」

「ああ」


俺とローナは見回りに行ったが、その後、特に問題を発見する事はできなかった。


「今日はもう終わりですね」


ローナがそう言うと、ローナの携帯が鳴った。携帯を取り出し、


「あれ? 先輩からだ。どうしたんだろう……もしもし。先輩どうしたんですか? え? はい。わかりました」


すぐに通話を終え、携帯をしまう。


「彩先輩、なんだって?」

「なんか、今日は帰るのが遅くなるから先に帰ってご飯も食べていてとのことです」

「ふ〜ん。ご飯ってお家にあるのか?」


いつも彩先輩が作るから俺はそう聞いてみたのだが、


「私が作ります! 任せてください」


えっへんと胸を叩くローナ。


「あ、なんですか? その顔は」

「別に〜」

「もう……私だって、やる時はやるんですからね。あ! そうだ!」

「うわっ、なんだよ。急に」


ローナがいきなり大きな声を出すので、ビックリしてしまった。


「今日は先輩に負けないくらい美味しいご飯、食べさせてあげますからね!」


ローナは目を輝かせながら言った。


家に帰ると、ローナはエプロンをつけるでもなく、呪文を唱えだした。すると、セーレが現れた。


「何の用だ?」


セーレは面倒くさそうに答えた。


「美味しいご飯が欲しいの」

「はぁ〜。報酬は?」

「魔女の実よ」

「そいつはやらねぇわけにはいかねぇな」


セーレは手をかざすと、目の前に人、一人ほどの大きさの宇宙空間が現れた。セーレはそこに入っていくとすぐに戻ってきた。

再び現れたセーレの手にはたこ焼きを持っていた。


「美味しそう〜!」

「美味しいご飯って、これかよ」

「さあ、報酬を寄こせ」

「そうでした、はい」


ローナの前にたこ焼きを置いたセーレは、ローナから魔女の実を受け取ると満足そうに消えた。


「さあ、食べましょう!」


なんだかんだいいつつ食べたたこ焼きは、やっぱり美味かった。


「美味しい〜! ん?」


ふと、ローナが窓の方を見た。


「どうした?」

「今、誰かの視線を感じたような……」

「視線?」

「いえ、気のせいです。なんでもありませーーーーあぁ! 駿之介くん、私の分のたこ焼き食べましたね⁉」

「は⁉ 数なんて決まってたのかよ」

「酷いですよ〜!」


涙ながらにローナは俺に抗議した。その必死な様子に、少し悪いことをしてしまったような気がした。



食べ終えると、片付けをし、お風呂も終えると、ローナは大好きなドラマに夢中になった。


「本当、好きだよなドラマ」


俺の言葉に、ローナが返した。


「ドラマを見てたら、まるで自分がヒロインになったかのような気分になれるんです。私も遊園地で好きな人とデートするのが 

夢です」

「遊園地ねぇ……」

「はい。一番の夢は、観覧車の頂上でキスをすることなんです」


ローナの目は夢見る少女のように輝いている。


「別に、頂上じゃなくてもよくねぇか?」

「ダメですよ! 頂上だから、良いんです。逆に、頂上でなくてはいけません」

「よくわかんねぇな」

「駿之介くんには、乙女の気持ちは難しいんですね」

「俺には、分かりそうにもねぇや」

「いいんですよ。無理に分かろうとしなくて」


ローナは変わらず目線はテレビに釘付けだったが、少しの沈黙の後、


「駿之介くん」


ローナが真面目な表情で俺を見た。


「ん?」

「今日、助けてくれてありがとうございました」

「俺、なんかしたか?」

「暴動が起きた時、コイツに手ぇ出すんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ! って言って守ってくれたじゃないですか」

「あぁ……そうだったかな」


確かにあの時は咄嗟にそう言ってしまったが、今考えると、少しこっ恥ずかしくなってきて俺はとぼけた。


「カッコよかったです」


ローナがそう言い微笑んだ瞬間、俺は不覚にもドキッとしてしまった。慌てて顔を背けると、ローナが俺をひょいと持ち上げた。


「あー、顔を逸らさないで下さいよ」


おどけた調子でそう言うローナを見る。人に褒められ慣れてない俺は顔が熱くなっているのを感じた。俺と目が合ったローナは、ハッとした表情をすると、ほんのり頬が赤く染まっていった。


その時、ドラマの中でもいい雰囲気になった主人公たちがキスをした。お互いに見つめ合っていると、自然とそういう雰囲気になった。段々と近づく、俺とローナの距離。

俺はこの時、自分がカエルの姿だという事が酷く残念な気持ちになった。

ローナと俺の口が触れそうになった瞬間、


「見つけたわ!」


先輩がドアを勢いよく開けた。


「わ、わ、わ、わ! 先輩! ノックくらいして下さい!」


ローナが俺をポイッと投げ捨てた。


「ぎゃ!」

「ーーーーなにしてるの?あなた達」

「いえ、なにも!ね?駿之介くん」

「ああ……」


俺は壁に逆さまになった状態で返事をした。


「それより、どうしたんですか?そんなに慌てて」


ローナが焦って話しを逸らすと、先輩は


「そう、見つかったのよ」

「見つけたって、まさかーー!」


ローナと俺が目を合わせた。

先輩がニヤリと笑う。


「ようやくヤツを見つけたわ」


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