第五話 学園祭一日目
今日から三日間、学園祭が行われる。
生徒同士の親睦を深め、学園での思い出作りのために行われるこの学園祭は、家族や友人を呼んでも良いため、多くの人で賑わっている。
ただでさえ、人の多いこの学園に、知り合いや家族がプラスされ魔導書探しは困難を極めそうだ。
それに加え、生徒会役員である彩先輩とローナは、見回りと言って何かいざこざが起きないか校内を巡回しなくてはならないらしい。
「それでは、各自巡回をお願いするわ」
生徒会長である彩先輩がそう言うと、ナオキともう一人の生徒会役員である女子の柏木ハルコが返事をして巡回に回った。
彩先輩はローナにこっそり耳打ちした。
「ローナは東側を探して。私は南側を探すわ。見つけたら、すぐに連絡する事」
「わかりました!」
俺はローナの肩に乗り、ローナと行動を共にした。グシオンの魔法により、俺の姿は周りに見えない。
先輩は魔術で、特定の場所を見張る事ができるらしいので、別行動だ。
「駿之介くん、大丈夫ですか?」
悪魔を探しながら、ローナがコッソリ聞いた。
「いや、最悪だよ……」
今朝起きた時から頭がガンガンと痛くて俺は最悪の気分だった。
「魔女の実なんか食べるからですよ。あれは人間の食べる物ではありませんから」
それならそうと、早く言ってほしいものだ。それにしても、悪魔を探しながらローナはなにやらソワソワしている。
「どうした?」
「あそこが怪しいです!」
行くと、屋台の食べ物を買いまくって満喫しているローナ。
「はっ! すいません……駿之介くんの気持ちも考えずに」
ローナは肩を落とした。
俺は先輩との昨日の会話を思い出す。
「まぁ、少しくらいなら別にいいんじゃねぇの?」
「そうですよね!」
そう言うとローナは目を輝かせた。
焼きそばにたこ焼き。たくさんの屋台を歩き回り、ローナは楽しそうだ。
「私、屋台で買ってみたかったんです。この間ドラマで屋台で買っているのを見てから絶対、食べたいって思ってたんです!」
「またドラマかよ……本当、好きだな」
「はい! あのドラマは最高です!」
「それにしても……ちょっと買いすぎじゃないか?」
「次、次で最後にしますから! すいませーん」
ローナが店員に声をかけると、
「ローナ、彩先輩に怒られるぞ」
後ろからナオキが声をかけた。生徒会役員を共に務めるナオキ。ナオキか腕には生徒会役員の輪っかが着いている。
「何か問題がないか、見回るのが僕達の仕事だろ」
「このたこ焼きに何かおかしな物が入ってないか確認しているんです」
ローナの反論に、ナオキは呆れた様子だった。ナオキの傍らには同じく生徒会役員のハルコがいた。ハルコはお面や綿飴など、ローナより祭りを愉しんでいるのが伺える。
「お前達だって、遊んでるじゃねーか」
ローナの鞄の中から俺がそう言うと、
「ん!? 今、駿之介の声がしたような」
「気のせいですよ!」
ローナに手で鞄に押し込まれた。
その時、遠くから悲鳴が聞こえた。
「誰か、先生を呼んで!」
俺達はその騒ぎにかけつけた。行くと、男子生徒二人が殴り合いの喧嘩をしている。
「やめろ!」
ナオキがその仲裁に割って入る。
「なんだてめぇ!」
馬乗りになっていた生徒がブチ切れるも、ナオキは怯まずに二人を引き離した。
「喧嘩はやめろ!」
「うるせぇな!外野は黙ってろ!」
興奮状態の男子生徒に、ナオキが殴られると思ったが、
「……悪かったな」
「いや、俺の方こそ」
周囲に人だかりができていたからか、二人は喧嘩をやめて立ち去った。
「ナオキくん、凄いです!」
「いや、収まって良かったよ。さぁ、皆も学園祭に戻って」
ナオキに拍手が送られて、その場はどうにか収まった。
「おい、どうした!?」
騒ぎを聞きつけた先生がナオキの元へかけより、ナオキとハルコは状況説明の為、先生と職員室に向かった。
「でも、なんで喧嘩してたんでしょうか?」
「さぁな。どうせぶつかったとかそんな事じゃねぇの」
俺がローナにだけ聞こえる声でそう言うと、
「まさか、駿之介くんじゃあるまいし」
「俺をなんだと思ってるんだ」
「さぁ!時間がありません。いきますよ!」
ローナが力を込めて、屋台に歩き出した瞬間、
「楽しそうね」
笑顔を引きつらせた先輩がローナの肩を掴んだ。その後こってり叱られていたのは言うまでもない。
◆
「ん〜! 先輩、今日のご飯もまた、美味しいです〜!」
リビングで、夕食に出された肉じゃがを一口食べ、ローナが頬を緩ませた。
「そう。褒めてもなにも出ないわよ」
彩先輩は素っ気なく答えると、味噌汁をすすった。
テーブルに並べられたのは、肉じゃがと味噌汁とサラダ。古典的な日本食を完璧にマスターしている。俺用に小さな皿に分けられた皿から、ベロを使い肉じゃがをペロリ。うん、こりゃ美味い。
「それで、何か情報は得た?」
箸を置き、彩先輩がローナに尋ねた。
「いえ、私たちはなにも……。先輩は、何か分かりましたか?」
「魔導書を持っている人物の特定に繋がる情報は得られなかったわ」
「そうですか……」
「ただ、今日そいつが魔力を使ったという事実は確認できたわ」
「本当ですか⁉」
「ええ。ヤツは今日学園の中庭で魔力を使っている」
「中庭……」
俺はハッとしてローナと顔を合わせた。
「中庭といえば、あの騒ぎがあった場所か」
「騒ぎ?」
彩先輩が眉間にシワを寄せる。
「はい。私たちが巡回している時、生徒同士のいざこざがあり、それをナオキくんが止めたんです」
ローナが彩先輩に説明する。
「でも、なんであそこで魔力を使ったってわかるんだ?」
「それは、先輩の得意分野だからですよ」
「得意分野?」
「はい。先輩が物に触れると、その物の所有者など映像が見る事ができるんですよ。集中すれば、その場の空気からでも読み取る事ができたり。私にはできない、高度な魔術なんです」
「へぇ、それは凄いな」
「そんなに凄い物でもないわ。見えると言っても、断片的にしか見えないし、必ず見たい物が見れるわけじゃない。見えたのは、真っ黒に染まった人間が、呪文を唱えた所。だから、その騒ぎに悪魔が関係している可能性は極めて高いわね」
そう言うと、彩先輩は俺をジーっと見つめた。
「な、なんすか?」
急に見つめられると、ドキドキする。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「はい」
俺は平静を保つため、目の前に置かれたジュースをストローで飲んだ。
「駿之介。あなた、友達はいる?」
その言葉に、飲んでいたジュースを吐き出した。
「なんすか、急に!」
「あら、いるの?」
「バカにしないで下さい。友達くらい……」
友達といえる名前が出てこない。
「ごめんなさい。今のは忘れて」
彩先輩が可愛そうなヤツを見る目で俺を見た。
「待て待て、謝られるのは辛い!」
彩先輩が立ち上がる。
「あれ? 先輩、お風呂ですか?」
「いいえ、今日は少し用事があるのよ。少し出かけてくるわ」
「そうですか……」
「……すぐ戻るわ。夜更かししようだなんて考えないことね」
「い、いやだなぁ! そんなことするわけないじゃないですか! あははは」
ローナの慌てっぷりから、図星だったことが伺える。
「それじゃあ、行ってくるから」
そう言って先輩は家を出た。
「駿之介くん、それじゃあお風呂に入りましょうか」
「おう」
ローナが俺をお風呂場に連れていく。
お風呂に入る。俺専用に切って貰ったタオルの布切れで体をゴシゴシと洗ういた段々とカエルの姿も慣れてきた。
と思っていると、ローナがタオルを巻いて入ってきた。
「な、ななななにしてんだ⁉」
「駿之介くんを一人にするわけにはいかないので、一緒に入ろうと思いまして」
「だ、だからってーー」
「大丈夫ですよ、タオルを巻いてますので」
そういう問題じゃないと思うのだが。
俺は小さな皿にお湯をため、それにつかりローナに背を向け、ローナが終わるのを待つ。
ローナは呑気に鼻歌を歌いながらシャワーを浴びる。その音が、俺の脳内に先ほどの姿を想像させてしまう。俺はそれを振り払うため、会話をすることにした。
「な、なぁ。そういえば、金丸に使ってた青い石のことなんだけどよ」
「ああ、記憶の石のことですね」
「記憶の石?」
「はい。あの石は記憶の石といって、記憶を変えられる石なんです。私たち魔法使いに関する記憶は、消さなければいけないですから、金丸先生に使った時は記憶の書き換えでしたが、記憶の石は記憶の書き換えだけでなく、記憶を保存したりすることも出来るんですよ」
「へぇ〜、そいつは便利だな」
「はい。記憶の石だけでなく魔法という物は確かに便利ですけど、使う者が道を間違えてしまうと犯罪などにも使用されたりしますから注意が必要なんですけどね」
確かに、俺は学校のテストも記憶の石を使えば楽勝だな、なんて思ってしまった。
「まあ、駿之介くんなら大丈夫だと思うんですけどね。……あれ?」
俺は頭がボーッとしてきた。
「駿之介くん? 駿之介くん⁉」
湯気と熱気によりのぼせてしまった。体に力が入らなくなってしまった俺は、ローナにベッドまで運んでもらったのだった。なんとも情けない。




