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第四話 悪魔の正体


 カーテンの隙間から日が差し込み、鳥の鳴き声が聞こえる。


「朝か……」


 結局、昨夜は一睡も出来なかった。横を見ると、ローナが気持ち良さそうに寝ている。余りの熟睡っぷりに、俺は男として全く見られていないのだろうかと少し落ち込む。まあ、鎖でグルグル巻きにされたカエルなんだけどな。


 と、ローナのアラームが鳴り、俺はなにも悪いことをしていないのにビクッ! となってしまった。


「ん〜、もうちょっと……」


 携帯のアラームを消すと、再びスヤスヤと幸せそうに眠りだすローナ。いや、それアラーム意味ねぇじゃん。


 そこへ、ドアをノックして彩先輩が入ってきた。


「ローナ。朝よ、遅刻するわ」

「え〜? まだ眠りたりないです〜……」

「そう」


 彩先輩は無表情で返事を返すと片手を前に出し、魔法を唱え出した。


「水の精霊よ、我に力を与えたまえ」


 ローナと俺の頭上に、大きな水溜りが出来ていく。


「おい、ちょっと待てーー」


 彩先輩が無慈悲に指を下に下ろした。瞬間、空中に浮かんでいた水の固まりが重力を思い出したかのように落ちてきた。水は俺とローナ、更にはベッドまでをも水浸しにしてくれた。


 水のを浴びたローナはバッと上半身を起こし、


「おはようございますです!」


 と寝ぼけながら敬礼した。







 朝からシャワーに入るはめになったローナは、慌ててドライヤーで髪を乾かしている。俺は鎖の拘束を解いてもらい、ローナが終えるのをまっていた。彩先輩は、もう先に学校に行っている。髪を乾かし終えるなり、ローナは言った。


「駿之介くん、私の肩に乗って下さい」

「肩って、俺がローナの肩いたら変に思われねぇか?」

「そこは大丈夫です」

「?」


 俺はローナの肩にジャンプすると、ローナは手を前にかざし呪文を唱えた。すると、ローナの前に現れた魔法陣から、一体の悪魔が姿を見せる。恐竜のような顔に目が四つあり、体は甲羅で覆われている。ザリガニのような手が六つ生えており、足は魚の尻尾の形をしていてフワフワと宙に浮いている。


「ダンタリオン、この者を透明にして」

「はいな!」


 ダンタリオンと呼ばれた悪魔は俺に向かって呪文を唱えると、宙でクルリと一回転した。だが、俺の体は何の変化もない。


「なにも変わらないんだけど」

「駿之介くん、鏡を見て下さい」


 そう言うと、ローナはトイレのドアを指さした。ドアには人の顔を確認するのに丁度良いくらいの小さめの鏡がつけられている。鏡を見ると、ローナの肩にいるはずの俺の姿が見えなくなっていた。これは凄い!


「ダンタリオン、ありがとう」

「お安い御用で」


 ダンタリオンはクルリと回ると姿を消した。


「あれ? 報酬は渡さないのか」


 確か、昨日呼び出していた悪魔には報酬という物を上げていたはずだ。だが、ダンタリオンという悪魔は、報酬を貰わずに消えた。


「ほとんどの悪魔は、後で纏めて渡すんです。バエルのように、すぐに欲しいという悪魔にはすぐ渡しますが」

「へぇ、そうなのか」

「はい。あ! いけない、遅刻しちゃいます! 急いで行きましょう」


 ローナは家を出ると、ほとんど休まずに走り続けた。学校に着き、教室に入ると、ローナの後に続いて金丸が教室に入ってきた。なんとか間に合ったようだ。金丸は教室を見渡すと、出席確認を始める。


「駿之介は休みか……」


 金丸が俺の名前を呼び、俺が居ないことを確認した時だった。クラスの佐々木健が、声を上げた。


「あれ……ない! お金がないぞ!」


 健の言葉に、クラスメイトはざわついた。


「お金って、なんのお金?」

「きのう集金していた、明日の学園祭の食材代じゃない?」

「え、それヤバくねぇ」

「どうするんだよ、明日の学園祭……」


 ざわめきは次第に大きくなり、いよいよ収拾がつかなくなりそうになった所で、金丸が怒鳴った。


「皆、静かにしろ!」


 金丸は健を見た。


「お金を教室に置いていたのか?」

「はい。集めたあと、持ち帰るのを忘れてしまい」

「今、見たら無くなってたと」

「はい」


 静まり返る教室。


「きのう、学園祭に向けた出し物の準備を最後までしていたのはこのクラスだけだ」


つまり、この犯行が出来るのは、このクラスの生徒だけ。ということになる。


「全員、目をつぶれ。いいか、やった者は正直に手を上げろ」


 誰も手を挙げない。金丸はポツリと呟いた。


「まあ、今日このクラスにいない奴が一人いるが……」


 金丸の言葉を聞いて、再びクラスがざわつく。


「え、ってことは駿之介がやったってこと?」

「今日来てないしな……あり得るんじゃね」

「マジかよ」


まるで俺が犯人かのような言われようだ。その時、


「駿之介くんは、そんな事しません!」


ローナが机を叩いて立ち上がった。シーンと静まり返る教室。


「ま、アイツはそんなことするようなヤツじゃねえからな」


そう言ったのは、ナオキだった。


「そうよね、駿之介くん見た目はああだけど、そういうことはしないと私も思う」


見た目はああだけどって、さり気なくディスるなよ。


「そうだよな、見た目はああだけど、駿之介はやらないよ」

「そうよね、見た目はああだけど」


皆の一言が気になったが、一人が声を上げたことで、俺が犯人ではないという空気が広がった。だけど、もしローナが言ってくれなかったら、俺は犯人にされていたかもしれない。








授業が終わり、俺たちはあの倉庫に来ていた。

彩先輩の言葉によると、悪魔はここに現れるらしい。


「来るわ」


俺たち三人は、ダンボールの影に隠れていた。すると、ドアを開けて誰かが入って来た。

その人物は、室内の真ん中辺りに来た所で叫んだ。


「うわっ! なんだ!?」



悪魔が罠にかかった。俺たちは物陰から出た。

そいつの体を、丸い体をした悪魔が鎖のような腕を、そいつの体に羽交い締めのようにしている。

ローナの呼び出した悪魔、シトリーが拘束の魔術により悪魔である人物を拘束している。罠にかかった人物。それは、


「犯人って、コイツかよ……!」


担任の金丸だった。


「ええ、そうよ」

「おい。一体どうなっているんだ、これは!?」


見動きがとれず金丸は暴れようとした。


「シトリー、離さないでね」

「うん! わかった」


シトリーと呼ばれた悪魔は、ローナにそう言われ、力を込めたようで、金丸がうめき声を上げた。


「ぐぁ……やめろ! お前たち、こんな訳のわからないことはやめないか」


困惑した様子の金丸に、先輩は言った。


「もうバレているんだから、演技はやめたら?」



誰にも見られないように俺達は金丸をローナと先輩の自宅に連れていった。


「こら、悪ふざけはやめて、早く離さんか」


家に入ってもなお、拘束している金丸がそう言い続けているのをみて、俺は本当に金丸が悪魔に取り憑かれているのか疑わしくなってきた。


「なぁ、コイツ本当に悪魔に取り憑かれてるのか? 間違いだったりして」

「そうだ、何か勘違いしているぞ。早く離してくれ」

「そんな事ないわ」


彩先輩は断言した。


「どうして分かるんすか?」

「現に、あなたが話している事に驚きもしてないのが証拠よ」

「あぁ、なるほど」

「ちっ!」


金丸は苦い顔で舌打ちをした。ローナが手を前にかざした。目の前に魔法陣が現れ、そこから一体の悪魔が現れた。

頭はフクロウだが体は人間の姿をしており、大きな目が不気味だ。手には大きな剣を持っている。


「グシオン、この者に取り憑きし悪魔の姿を見せよ」

「承知した」


グシオンと呼ばれた悪魔が剣を構えると、「ぐぬぬっ……」と金丸が額に汗を浮かべ歯ぎしりをした。グシオンが剣を動かそうとした瞬間、


「待て待て! わかった、降参だ」


金丸の口調と表情が別人のようになった。グシオンが動きを止めた。


「わかった。今出るから、とにかくその物騒な剣を下ろしてくれ、グシオン」


グシオンは剣を金丸に向けたまま、ローナを見た。


「貫かれたくなかったら、今すぐこの者の体から離れなさい」

「へいへい、短い自由だったぜ」


金丸が目を閉じると、頭から一体の悪魔が出てきた。金丸はそのまま倒れた。それを見たローナは「もう良いですよ」と言ってグシオンに魔女の実を渡した。

魔女の実を貰い消えるグシオン。



「あのクラスのお金を盗んだのもあなたなんでしょ?」


ローナが聞くと、金丸は笑った。


「ああ、そうだよ。そこのカエルが評判が悪いもんで、皆がお前の犯行だと思ってたがな。キヒヒヒ」

「てめー!人を陥れようとしやがって!」

「落ち着きなさい! 挑発に乗っては、悪魔の思うツボよ」


彩先輩が俺をいさめる。金丸は俺をバカにした顔で「挑発じゃない。真実だ」と言ったので腹が立った。


「五番目の悪魔、セーレよ。我と契約を結ぶか、これから数十年、魔導の異界にいるか、どちらか選びなさい」

「かぁー。もうあんな真っ暗でなにもないとこはごめんだね。あんたと契約を結ぶよ」

「良い選択ね。報酬は、魔女の実よ」

「そいつはえらい豪華だね。これからよろしくたのみますよ」

「ええ、こちらこそ」


ローナが手を前に出した。


「我、汝と契約を結ばん」

「我、この者に使えることをここに誓う」


ローナの手の甲に、魔法陣が現れた。


「契約は終わった?」

「はい」


彩先輩が、金丸を見た。


「先にこちらから片付けましょう」

「そうですね」


ローナはポケットからある物を取り出した。青色で、クリスタルのような形をしている。


綺麗だな。思わずそう思った。


先生の横に座ると、ローナは石を先生の顔の前に持っていった。


「あなたは学校の倉庫に行った後、私からお金の話しを持ちかけられ、私の家に来た。そしと、これまでの悪魔と魔法に関する記憶は全て無くなる」


石が光ると、数秒して先生は目を覚ました。


「う……ん?」

「先生、大丈夫ですか?」

「あ、ああ……。それで、話しってなんだ?」

「はい。あの、クラスのお金の事なんですが」

「ああ、その事か。どうした?」

「実は……あのお金、一度私が預かっていたのを忘れてたんです。クラスで言いにくくなってしまって」

「そうか、そういう事だったのか。いや、駿之介には悪い事を言ったな。明日、クラスの皆に話しをしよう。それじゃあ先生は帰るよ」


ローナからお金を受け取り、先生は帰った。


セーレを呼び出すローナ。


「それじゃあ、本を渡してくれる?」

「それは無理だ。あの本は、無くした」

「無くした、ですって⁉」


ローナは信じられないといった顔をした。


「ああ。俺が時空を超えてこの世界に来た時、図書館に出てきた俺は、目の前にいたあの人間に取り憑いた。だが、その時、生徒に呼ばれ、持っていた魔導書を図書館の本棚に隠した。だが、戻って来た時には魔導書は無くなっていた」

「そんな……」

「この悪魔がウソをついている可能性は?」


彩先輩がローナに尋ねた。ローナは首を横に振った。


「それはありません。魔法陣の外に出ているなら可能性はありますが、魔法陣の中にいて契約者に嘘をつくことはできません」

「嘘じゃねぇよ」


セーレは不服そうに口を尖らせた。


「どうするんだ!?」

「とにかく、学校にいる人物という事だけは確かだわ。明日探しましょう。ちょうど都合が良い。明日から学園祭がはじまる。私たち生徒会は見回りという名目で学園内を回れるもの」

「そうですね」


彩先輩は壁にかけられた時計をチラリと見た。


「明日に備えて今日はもう休みましょう。ローナ、お風呂に入りなさい」

「はい!」


きのうと同様に、ローナがお風呂に入り、その後に俺がお風呂に入った。きのうと違うと言えば、俺は自分でお風呂に入ることが出来たという点だ。段々とカエルの姿にも慣れてきて、動かし方が分かって来た。いや、これは喜ぶことではないのだが。


彩先輩が俺を連れてローナの部屋を開けた。


ローナは目を瞑りながら植木に手をかざしている。その手から植木にかけて、黄色の光が纏っていた。


「ローナ、駿之介もお風呂終わったわよ」

「あ、先輩。分かりました」


俺が部屋に入ると、彩先輩は部屋を出てドアを締めた。


「今、なにしてたんだ?」

「これですか? これは、魔女の実です」

「これがか」


魔女の実といえば、悪魔が命令を聞いていた後にあげていたやつだ。


「魔女の実は、その魔法使いによって味が変わったりするんです」

「へぇー」

「悪魔だけじゃなくて、ケルちゃんも大好物なんですよ〜」

「あのケルベロスがねぇ」


俺はあの部屋を守る番人が、犬の様にお座りして尻尾を振っているのを想像した。


「あー……そういえばよ、サンキューな」

「なにがですか?」


ローナは首をかしげた。


「今日、俺がセーレにお金を盗んだ犯人にされそうになった時、助けてくれただろ」

「あぁ、あれは思ったことを言っただけですから」


ローナはあっさりとそう言った。


「でも、駿之介くん、周りに酷い言われようでしたね」

「ああ。評判悪いんだよ、この金髪」

「そうですか? 私は好きですよ。その金色の髪」

「そ、そうか……?」

「はい」


ローナは微笑んだ。これまでこの髪の色を貶す人はいても、褒められることがなかった俺は内心、嬉しかった。


「それに駿之介くんの人柄を分かってくれる人だっていましたしーーって、駿之介くん! なにしてるんですか⁉」

「ん?」


俺はどんな味がするものかと魔女の実を興味本意で一口食べていた。なんだか、体中が物凄く熱い。


「あれ? なんらこれ、あるへねぇ……」


呂律が回らなくなり、真っ直ぐ立つことすらできなくなった俺は、地面に転んだ。


「だ、大丈夫ですか⁉ 駿之介くん!」


頭がクラクラする。なんかよくわかんねぇけど笑えてきてすげー気持ちが良い。そして猛烈な睡魔に襲われた。





目の前のには、小さい頃の俺がいる。まだ、髪を染める前で確か小学生になった頃あたりだ。


小学生ぐらいの俺は、家の中で体育座りをしている。その時、家のチャイムが鳴った。出ると、小さい時のナオキがニ、三人の友達を連れて、野球バットを持ちながら笑った。


「駿之介、遊びにいこーぜ!」

「……いや、俺はいい。やめとく」


笑顔のナオキに俺は無愛想にそう言ってドアを閉めた。


場面が変わり、今度は小学四年生くらいの俺がお風呂場で一生懸命髪を染めていた。髪を洗い流し、金髪になった髪を母さんに見せると、母さんは驚いた後、困ったように笑った。



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