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第二話 魔法使いなの


 生徒会長はそう言うとソファーに座った。二人が座れるソファーが二つ、ガラス製のテーブルを挟んで向かい合って設置されている。ローナは先輩の隣に座り、俺は向かいのソファーにジャンプして飛び登り座った。


「まずは自己紹介からね。私は三年のさやか。生徒会長をやっているわ。ローナとは、同じクラスということで間違い無いかしら?」

「ああ。そうだけど」

「そう、だけど?」


 俺の返答に、彩先輩は怪訝な顔をした。俺はたじろいだ。彩先輩の顔が般若のようになっている。


「そう、です」

「よろしい」


 どうやら敬語を使うことが正確だったらしい。俺はホッと胸を撫で下ろした。


「単刀直入に言うわ。実は、私達は魔法使いなの」

「本当に単刀直入だな!」


 彩先輩のあまりにも突拍子のない発言に、俺は思わず突っ込んでしまった。


「いけないかしら?」

「先輩、もう少し順を追って説明した方がいいかと」

「そう? 分かったわ」


 ローナにそう言われ彩先輩は肩をすくめた。先ほどの発言を本気で言っているとするならば、もしかしてこの人は天然なのではないだろうか。


「私達は、この世界とは別の世界から来たの」

「別の世界?」

「ええ。そこでは魔法という物が存在するわ。火を出したり、水を操ったり、傷を癒したりね」


 テレビや小説にしか出てこないおとぎ話しが現実に存在している。カエルになったことや、さっきの俺を包み込んだ水も、魔法が存在すると証明しているのだが、それでもやはり目の前の今の状態が夢を見ているのではないかと思うほど現実離れしている。

 そんなことはお構いなしに、彩先輩は続けた。


「私達はその魔法の世界に住む魔法使いなの。私達の国には魔導書と呼ばれる本で悪魔をが存在するわ。その魔導書で悪魔を呼び出し、契約することで悪魔の力を得ることができる。けれど、

ある日魔法の国で事件が起きたの」

「事件ですか?」

「ええ。魔導書を使って悪魔を呼び出すまでは良かった。だけど、契約を失敗していしまい、召喚された悪魔が異世界に逃げてしまった。我々は逃げた悪魔を追って、ヤツの居場所を突き止めることに成功した。ヤツは日本のとある学園の人間に乗り移っていたんだ」

「その学園っていうのが……」

「ええ。あなたの通う海聖学園よ。そしてヤツを見つけた我々は。罠を仕掛けたの」

「罠?」


 彩先輩は俺を指さした。「このカエルか!」俺がそう言うと、彩先輩は頷いた。


「未来予知の能力で得た情報を使い、本当はあそこに現れるはずだったヤツに呪いを仕掛けたはずだったんです」

「呪いって、このカエルか⁉」

「ええ、そうよ。だけどそこで誤算が生じた」

「駿之介くんがあそこに訪れるなんて想定外だったんです」


 ローナが申し訳なさそうに言った。


「そうね。予想外に現れた駿之介が、その仕掛けに引っかかってしまった」

「まさかあそこにヤツ以外の人物が現れるなんて想像もしていませんでした。これは、私のミスです」


 ローナは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「なぁ、この呪いって、解けるんだよな⁉」


 彩先輩とローナは黙り込んだ。おいおい、嘘だろ……? もしかして、ずっとこのままってことはないよな。そう思っていると、先輩がローナに尋ねた。


「ローナ、バエルと話しをさせてくれる?」

「はい」


 ローナは頷くと、立ち上がり手を前にかざした。目を閉じると、髪の毛がフワフワと浮き上がり、手の前に魔法陣が現れた。


「我と契約し27番目の王よ。我の前に現れよ」


 ローナが呪文を唱えると、魔法陣から悪魔が姿を見せた。顔は年老いた老人の顔をしているが、尖った大きな耳に頭には冠をかぶっており、異質なのは胸から下が無く、胸から蜘蛛のような足が六本生えている。そして右肩には猫、左肩にはカエルが生えていて、不気味を通り越して気持ちが悪い。


「我と契約されし召喚者よ、何用か」

「我の仲間の問いに答えよ」

「して、報酬は?」

「魔女の実だ」

「承知した」


 ローナの言葉を聞いて、バエルと呼ばれた悪魔は口角を上げ。彩先輩に体を向けた。彩先輩はバエルを見て少しも怖気づく様子無く口を開いた。


「あなたの呪いにかかった者の呪いを解く方法を教えて」

「我の呪いにかかった者は、三十三番目の悪魔が持つ聖水で呪いを解く事が出来る」

「他に方法は?」

「ない。聞きたいことは、それだけか?」

「ええ、ありがとう」

「それでは、報酬を寄こせ」


 ローナがポケットから丸い玉を取り出し悪魔に渡すと、悪魔は嬉しそうに玉を受け取り姿を消した。


「今のが悪魔……」

「そうよ」


 なんとも言い難い不気味なヤツだった。しかし俺は、バエルが言っていた言葉を思い出す。


「じゃあ、聖水ってやつで直せるんだな!?」


 ローナが気まずそうな顔をした。嫌な予感がする。


「直るん……だよな?」

「今は無理なんです」

「なんでだよ!」


 俺の質問に、彩先輩が答えた。


「さっきバエルが言ってたように、確かに聖水で直せるわ。でも、その聖水を持つ三十三番目の魔導書は、逃げた悪魔に盗まれてしまったの」

「って事は、俺はずっとカエルのままなのか⁉」

「大丈夫です! 必ず悪魔を捕まえますから!」


 ローナが真っ直ぐと俺を見て、力強く拳を握った。しかし、確実に捕まえられるという保証などどこにもない。いちまつの不安が脳裏をよぎった。


「とにかく、あなたがカエルになったということは誰にも知られてはいけないわ。だから、元の姿に戻るまではこの家に住んでもらうわよ」

「ああ。わかった」


 それは俺としても賛成だった。このカエルの姿のまま自宅に帰ったって、母親が気絶してしまうだけだろう。


「でも、あなたの親にどう説明しようかしら……」


 彩先輩が顎に手を当て思案した。


「それなら、俺に良い考えがありますよ」


 俺はローナを見た。


「ローナ、俺の携帯を取ってくれないか?」

「携帯ですか?」

「誰に連絡するの?」


 彩先輩が訝しげな顔をした。


「ナオキに頼もうと思ってね」

「ナオキって、笹倉ナオキくんですか?」

「笹倉くん?」


 彩先輩も知っている様子だ。


「あれ? 知っているんすか?」

「ええ、彼も生徒会役員だもの」

「ああ。そうか。確かナオキも生徒会に入っていたんだったっけ」


 あまり生徒会に興味がないので、ナオキが彩先輩と接点があるということに気づかなかった。しかし、ナオキと面識があるのは都合が良い。


「俺、ナオキと幼なじみなんすよ」

「へぇ、そうだったの」

「昔はナオキの家に泊まったりもしてて。だから、俺の親もナオキのこと知ってるし、ちょっと口裏を合わせてもらおうと思って」

「そう」


 彩先輩がローナを見て頷いた。ローナは鞄の中から黒色の携帯を取り出し俺の前に置いた。

 携帯に飛び乗り、携帯画面を操作しようとすると、


「あれ? くっそ……このっ!」


 中々反応してくれない。なんだよ、最近の携帯は性能が高いんだから、カエルにも反応してくれよ。なんて口にしようとした時、ピョンとベロが伸びた。もしかして……これって、ベロで操作できるんじゃねぇか? そう思った俺はベロを画面に向けて突き出してみた。すると、勢いよく伸びたベロ画面にぶつかり、うまくいったと思った瞬間、携帯がベロにくっつき、ゴムのようにそのまま俺の元に戻ってくる。


「お⁉ ぉぉおおおおおおお!」

「「あ」」


 俺の体に携帯がぶち当たり、少し後ろに吹っ飛んだ。


「あのー……大丈夫ですか〜?」

「あ、あぁ……」


 ローナが心配をうに俺を覗き込んでくる。なんとも恥ずかしい醜態を見せてばかりだ。 


「私がやりましょうか?」

「悪ぃな、頼む」


 ローナに携帯を操作してもらい、ナオキに電話をかけてもらった。少しのコールの後、ナオキが電話に出た。


「もしもし」

『駿之介。どうした? 電話してくるなんて珍しいな。中学校以来じゃないか?』


 ナオキとは保育園の時からの付き合いだが、小学校に上がってからあまり遊ばなくなっていた。だけど、中学生の時に俺が親と喧嘩をして家に帰りたくなくて、ナオキの家に泊まっていることにしてほしいと電話をしたことがあった。確かに、その時以来の電話だ。


「ちょっとお前に頼みたいことがあるんだけどよ」

『……はは〜。さては、またなにかやらかしたんだろ?』

「あ、あぁ。まあ喧嘩とかじゃねぇんだけどな」


 中学の時のことがあり、ナオキは俺がなにかやらかしたんだろうと勘違いしてくれたようだ。まさか俺がカエルになったなんて夢にも思わないだろうな。


「俺がしばらくお前の家に泊まってることにしてほしいんだよ」

『ったく……しょうがねぇなぁ』


 ため息を吐きつつ、ナオキは了承してくれた。


「まじサンキュー!」

『んで? 俺は駿之介の母さんに連絡すればいいのか?』

「いや、母さんには勉強を見てもらうってことで俺から話しをしておくからよ。なんか聞かれたら適当に話し合わせてほしい」

『オーケー、わかった』

「頼んだぜ!」


 通話を終えた俺は、ローナに再び携帯の操作を頼み、今度は母さんに電話をかけてもらった。ナオキの時とは違い、母さんは1コール目で電話に出た。


「もしもし母さーーーー」

『駿之介! あんたこんな時間までどこほっつき歩いてんの!』


 通話をマイクにしていなくても聞こえるだろう怒鳴り声に、俺は少し萎縮してしまった。


「母さん、連絡が遅くなって悪ぃ。実は今、ナオキの家にいるんだけどさ」

『ナオキって、笹倉ナオキくん? なんでまた急に』

「最近、テストの点数が悪いから、このままだと留年するぞって金丸に言われてさ。学園祭が終わったらテストするって言われてナオキに勉強を教えてもらってるんだけど、ちょっとテストに勉強が間に合いそうにないからしばらくナオキのお家に泊まるわ」

『そんな急に……向こうのご家族に迷惑じゃない?』

「それなら、もうナオキの親にOKもらってるから」

『そう』


 学校の成績のためと言われ、母さんは怒りが収まったようだ。


『わかったわ。後で母さんもお礼に伺うから』

「あ、テストが終わってからにしてくれよ?」

『ええ、わかったわ。それじゃあ、くれぐれも迷惑だけはかけないようにね』

「ああ、わかってるよ」


 俺は通話を切った。


「よし、これで大丈夫だな」

「助かったわ。ありがとう」


 俺はホッと胸を撫で下ろした。


「ローナ。駿之介に家の案内をしてあげて」

「はい。駿之介くんこっちです」


 ローナはリビングを出て玄関に向かった。俺もローナの後ろをついて歩く。


「ここがトイレで、こっちがお風呂場です」


 玄関とリビングの間にトイレがあり、その向かいにお風呂場があった。


「二階に行きましょう」


 そう言ってローナは、トイレとリビングの間にある螺旋階段を登って行った。

 二階につくと、左右と突き当りにドアがある。歩いて行き、


「手前左側の部屋が私の部屋で、右側の部屋が先輩の部屋です」


 そのまま突き当りのドアまで歩くと、ローナは俺に振り返った。


「駿之介くん。一番大切な事があるんですが、このお部屋には絶対に入らないで下さいね」


 そう言われると、入りたくなる。


「ちなみに、勝手に入ったらどうなるんだ?」


 冗談半分で聞くと、ローナはサラリと言った。


「死にます」


 訳が分からず、黙っていると、


「一度見てみた方が納得すると思います」


 と言って、ローナはドアを開けた。部屋に入った瞬間、


「うっ……!」


 俺は悲鳴を上げそうになった。

 部屋の中心に、部屋を埋め尽くさんばかりの巨大な生き物がいた。そいつは訪問者が来たことに気づくと、眠っていた体を起こした。犬のような体をしていて頭は三つある。犬というと可愛らしいイメージだが、筋骨隆々の足は丸太のように太く、尖った爪で攻撃されれば人間の体なんて簡単に切り裂いてしまえるだろう。


「グルルルルルル……!」


 犬のような三つの顔は、しわくちゃになり、大きな口がワナワナと動いている。むき出しになった鋭い牙から大粒の唾液が滴り落ち、唸り声を上げながら蛇のような眼で俺を凝視している。

 むくりと立ち上がった体はローナの三倍ほどはある。


「ケルちゃん、おすわり!」


 まるで愛犬に声をかけるようなトーンでローナがそう言うと、眼の前の三つ首犬は眼をぱちくりとさせ、以外にもローナの言葉に従った。


「番犬のケルベロスです。ここには大切な魔道具を置いているので、見張りをしてもらっているんですが、ケルちゃんは私以外は敵だと認識するので、絶対に入ってはいけないですよ?」


 俺は黙って頭を何度も縦に降った。


「それじゃあ、行きましょう。ケルちゃん、晩ごはんは後で持ってくるからね」


 ローナがそう言うと、ケルちゃんは肩を落とした。そういうのを見ると少しだけ可愛らしいと思えたが、部屋を出た俺は絶対にこの部屋には入らないでおこうと誓った。


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