第十話 さよなら
「悪い、また後でかける!」
『え? ちょっと駿之介ーー』
俺は通話を切り、走った。改札をダッシュで駆け抜け、停車していた電車に乗る。
「発車します。閉まるドアにご注意ください」
閉まるドアが遅く感じる。電車に乗り、向かった先は、ローナの家だった。
家に着くと、明かりがついていない。暗くて静かだ。
俺は家のチャイムを鳴らした。だが、応答はない。俺は玄関のドアを叩いた。
「おい! いねーのか⁉ ローナ!」
「何してるんですか⁉」
後ろから声がして、振り返ると一人のおじいさんが立っていた。
「あの、俺ここに住んでいる藤崎ローナと彩の知り合いなんすけど」
「ああ? なに言ってんだ、ここには今誰も住んでいないよ」
「え? 引っ越したってことですか?」
「いんや、ここの売家はもう1年も誰も住んでいないさ」
「1年……?」
「家を間違ってるんじゃないのかね?」
「いや、そんなはずは……確かにこの家のはずなんだ!」
「しつこいなぁ。警察を呼ぶぞ!」
そう言われ、俺はその場を移動するしかなった。家を間違っているはずはない。確かにこの家のはずなんだ。ということは、やはりーー
俺は自宅に戻った。
「お帰り。出掛けてたの?」
「あぁ……」
母さんの言葉にそう返すのがやっとだった。
部屋に行くと、机の上に記憶の欠片が浮いていた。
俺は急いで、記憶の欠片に触れた。すると、ローナのホログラムが現れた。
『駿之介くん、いきなり消えてしまってごめんなさい』
俺は震える手でローナに触れた。映像のローナは透けて触れなかった。
『私たちがこの日本に来たのは、逃げた悪魔と、その悪魔が持ち出した魔導書を追ってのことでした。でも、その目的を果たした今、私たちはこの日本に留まる理由が無くなってしまいました。魔法の国に帰らなくてはいけないんです』
『今日、先輩が私たちに関する記憶の消去を学校で行いました。もう、私たちを覚えている人は誰もいません。だから駿之介くん。駿之介の中にある私たちの記憶もーー』
ローナはそこで顔が歪み、下を向いた。数秒押し黙り、目を拭いながら顔を上げる。そこにはいつもの笑顔のローナがいた。
『最後に、駿之介くんと遊園地に行けて本当に楽しかった。私のお願いを聞いてくれてありがとう』
「なんだよ……勝手に満足してんじゃねーよ」
『駿之介くんが私のことを忘れても、私は駿之介くんのこと忘れませんから』
『最後に……』
最後だけ、ローナの音声が途切れて聞こえなかった。けれど、口の動きでなんて言ったか俺には分かった。
ーーーー大好きです。
「忘れるもんか、ぜってー、忘れねぇからな」
俺がそう言った瞬間、激しい光が現れた。