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Recollection  作者: 雲居瑞香
24/25

24話









 少なくとも、グランデ少佐がハリエットに『かくまうように』頼んだということは、彼らが後を片づけてくれるつもりはあるのだろう。

 閉じ込められて暇なので、キーランはオリガに尋ねた。


「ブルーベル大尉、僕に伝言を残したってことは、少なくとも三日前からこうなるかもしれないことに気付いていたってことだよね」

「ええ、そうですね。私が彼らでも、真っ先に疑うのは私ですし」


 本当は養母の方を疑うべきなのですが、とオリガが言うので、やはりハリエットは情報部の人間なのだろうなぁと改めて思うキーランだ。

「実際のところ、君はどこまで読んでたの?」

 オリガはキーランの質問に首をかしげる。

「どこまで、と言われても困りますが……そうですね。私の父と母、それから養父母は議会の中にいわゆる戦争ビジネス組織『Coal』の構成員がいることに気付いたのでしょう」

「議会の中に構成員が?」

「っていうか、あんたのご家族ってそろいもそろって何者なのよ」

 シレア大尉は尋常ではないオリガの家族が気になったようだが、オリガは彼女の発言を華麗にスルーした。

「内通者がいるというだけでは、ここまで彼らの思い通りに進むはずがありません。彼らは戦争をビジネスにしているのですから」

「戦争が起これば儲かるのか……だから、戦争になるよう誘発した」

 思わずキーランは考え込んだ。彼が本格的にこの戦争に参入したのは、二年前、士官大学教授の任を解かれてからである。突然開戦し、初戦で次々と上官にあたる者たちが戦死し、実戦経験の乏しいキーランにまでお鉢が回ってきた。

「……そうか。『消費』が増えるほどやつらは儲かるのか……」

 経済学はあまり詳しくはないが、それくらいはわかった。今ならシレア大尉がさくっと損害率も出してくれるだろうし、リンドロード少佐も新兵訓練が大変だ、的なことを言っていた気がする。


 失って、二度と帰ってこないものを、『損害』『消費』と捕らえてしまうのは戦術家の性ともいえる。良くないことだとは分かっているのだが。

「……彼らもある意味戦術家ってことか」

「どちらかと言うと、投資家なのでは? 私たちは失うしかありませんが、彼らには利益があるのですから」

 しれっとオリガが毒舌だ。今に始まったことではないけど……。

 この戦争が始まったのは、連合議会の議員のボディーガードが、統一機構側の大使を誤って射殺したところから始まる。そこから、統一機構が宣戦布告してきて……。

「待てよ。と言うことは、これも戦争をはじめさせるための布石……? 『Coal』は連合をつぶしたいのかな」

「と言うより、双方の疲弊を狙っているのでは? 戦争ビジネスと言うことは、今は儲かっているわけですし、我々が疲弊し、もうやめましょう、立て直しを行いましょう、となったときに、高利で融資すればいい気がします」

 キーランはオリガを見た。オリガもキーランを見つめ返す。


「……ブルーベル大尉、戦術家と言うより戦略家だよね」

「そうでしょうか」


 オリガが首をかしげてところで、同席者たちが静かだということに気付いてそちらを見る。

 リンドロード少佐は寝ていたし、シレア大尉は端末に猛烈な勢いで何かを打ちこんでいた。彼女は顔をあげて言った。

「あ、こちらはお気になさらず」


 何の話だ……。


 シレア大尉としては、むしろ、キーランとオリガの会話が理解できなかったのであるが。
















「……元気そうだね」


 そんな声が聞こえて、キーランは目を覚ました。リンドロード少佐も眠っていたようで、伸びをしている。女性陣二人は暇を持て余してチェスをしていたようだ。オリガが勝っている。ハンデをつけるべきではないだろうか……。

 声をかけてきたのはハリエットで、オリガが彼女に尋ねた。

「エティ、終わった?」

「ひとまずは。とりあえず、怪しい人間は全部拘束したって」

 あとでことの顛末を聞かないとね、とハリエットが言った。微妙なニュアンスの言葉だな、と思ったキーランだが、オリガも似たような感想を抱いたらしい。わずかに顔をしかめた。

「私たちって官舎に戻るわけにはいかないですよね。このまま統合参謀本部に出頭ですか?」

 シレア大尉が尋ねた。チェス盤を片づけているので、移動するつもりはあるのだろう。

「いや……そうしてもらわないと、このまま帰れって言われても困るよ」

 何かしらのアクションがあっても、キーランには対応しきれない。

「グランデ少佐が車まわしてくれるそうだから、そのまま統合参謀本部に行くといいよ」

 ハリエットはひらひらと手を振ってクールに言った。彼女にもお世話になってしまった。

 統合参謀本部に足を踏み入れるとこは、めったにない。大体のことは、宇宙司令本部で片付いてしまうからだ。ただ、辞令や作戦は統合参謀本部で受け取ることもある。


「提督、ご無事でしたか」


 統合参謀本部につくなり、グランデ少佐と合流した。敬礼に敬礼を返した彼は、オリガに向き直る。

「こちらの不手際により、巻き込んでしまって申し訳ありません。無事で何よりです。私は統合参謀本部情報部B班マチアス・グランデ少佐です」

「いえ、こちらこそ、お手数をおかけいたしました。宇宙軍第八特殊機動艦隊副官オリガ・リーシン・ブルーベル大尉です」

 キーランの元副官と現副官ががっちりと握手をした。キーランはなぜか複雑な心境である。

「ブルーベル大尉からの情報でだいぶ全体像がつかめてきました。詳しいことは別室で。あと、みなさんには今日はここに泊まっていただきます」

 ですよね。そうなるよね。四人そろってうなずいた。

 統合参謀本部ないとはいえ、エントランスで話すようなことではないので、グランデ少佐に従って移動する。


「今、『Coal』に関わっていたと思われる議員関係者と軍事関係者をすべて拘束しました。思ったより人数が多くて大変でした」


 ところどころ自分の感想が入っている気がするが、簡単にグランデ少佐はキーランたちが隠れていた間のことを話してくれた。

 キーランたちがオリガの救出作戦を行っているのと同時並行して、収賄疑惑のある軍幹部を一時隔離した。ちなみに、連合議員に対しては軍の力は及ばないため、連合執行部機密局預かりとした。こちらとも連携を取りつつの進行であったらしい。

 強制捜査を入れているうちに、戦争ビジネスについても明らかになってきた。武器などのテロ組織への密輸や任意の場所で戦争を起こさせるための裏工作など、様々なことが明るみに出てきた。

「あとは、統一機構とも連携を取れれば、ひとまず『Coal』の件は片付くと思うのですが……って、どうしたんですか」

「今、自分たちの所業を思い出して打ちひしがれているところ」

「戦術も裏工作とかいりますもんね」

 リンドロード少佐とシレア大尉が言った。フォローになっていないが、その通りだ。グランデ少佐の報告を聞いて、わが身を振り返ってしまったキーランとオリガである。

「しかし、ブルーベル大尉のご両親も随分細かく記録を取っていたものですね。一部抜けてますけど……」

 グランデ少佐は感心したように言った。おそらく、ヴィエラは日常の何気ない事柄から、それらの情報を読みとっていったのだろう。情報管理が彼女の弟夫婦に移行してからは、ハリエットが収集していたのだと思う。


 これで、戦争が終わればいい。


 夜、簡易宿泊室を使わせてもらったキーランは、廊下を歩いていた。何のことはない。のどが渇いたので水を買いに来たのだ。

「キーラン・オブライエン少将、失礼」

 ずどん、と音がして何もわからないうちにキーランはその場に倒れた。腹部が焼けるように痛い。

 そのまま気を失って、起きたら戦争が終わっていた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ちなみに次で最終話。


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