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Recollection  作者: 雲居瑞香
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1話

新たにSF。時々書きたくなりますが、やっぱり難しいです…。

新連載になりますので、よろしくお願いします。











 今から約三十年前に終了したはずの宇宙戦争が、再び開始されてから約二年。戦況は膠着したままで、何か打開策はないだろうか……。


「オブライエン少将」


 呼びかけられて、彼は目を開いた。目を閉じるのは彼が思考するときの癖だ。


「間もなく、出発の時間です」


 淡々と用件を述べた金茶色の副官が着任して、二週間ほどになる。彼は、未だにこの副官が少し苦手だ。悪い子ではないのだけど。

「わかった。今行く」

 そう言って彼は立ち上がると、自身の旗艦のブリッジに向かった。
















 キーラン・オブライエン少将は、二年前まで士官大学で戦術論を教える教師だった。当時の階級は大佐で、よくわからないうちに少将にまで昇進してしまった。

 彼が大学から戦場へ引きずり出されたのは、二年前にこの青い大地どころか宇宙を巻き込む戦端が開かれたからである。つまり、初めの半年程度でキーランより階級の高い指揮官が戦死したためである。平和ボケしていたことは否めないだろう。


 一応、キーランとて士官大学を卒業した後、従軍経験はある。だが、二年ほどは大学で教育を行っていたため、突然戦場に放り出された時はどうしようかと思った。

 それでも一応、生き残っている。現在は小規模とはいえ特殊部隊の司令官だった。


「少将」


 第八特殊機動艦隊旗艦シャムロックの艦橋で、キーランは出発の用意が整ったことを告げられた。後は、彼の指示を待つばかりである。

「よし、それでは行こうか。ブルーベル大尉、発進許可を出してくれ」

「了解しました」

 キーランの指示を受けて、ブルーベル大尉は発進シークエンスを開始させた。司令官の代わりにてきぱきと指示を出す若い女性大尉の横顔を、キーランはちらりと見た。


 キーランの副官オリガ・ブルーベル大尉は金茶色の髪に碧眼をした美女である。年は、キーランよりちょうど十歳年下の二十二歳。士官学校卒にしてもこの年で大尉と言うのは昇進が早いが、キーランが彼女を見知った時、彼女は少佐を名乗っていた。

 地位を詐称したとか、そう言うことではない。オリガは当時、本当に少佐だったのだ。それだけ優秀なのだろう。


 しかし、彼女は降格処分を受けて異動し、今はキーランの副官をしている。


 キーランも参加した、ひと月ほど前の宇宙会戦。低軌道での戦いであり、キーランの第八特別機動艦隊と第五機動艦隊が参戦していた。思ったよりも敵の攻勢が強く、押され気味になった時にキーランは一つの作戦を提案した。艦の数も、それに伴い宇宙戦闘機の搭載数も少ない第八特別機動艦隊だけでは遂行できない作戦で、第五機動艦隊との連携が必須であったが、第五機動艦隊の司令官はつい二年前まで大学で教鞭を取っていたようなやつの作戦には賛成できない、とつっぱねてきた。

 しかし、第五機動艦隊の旗艦が損傷を受けた後、再び通信画面に出た人物は司令官ではなかった。件の、オリガ・ブルーベル『少佐』だった。


『エインズリー司令官が指揮をとれる状況ではなくなったため、わたくしが指揮権を引き継ぎました。エインズリー司令官の副官オリガ・ブルーベル少佐です』


 よどみなく落ち着いた口調で名乗った彼女を、キーランはよく覚えている。彼女が美人だったから、と言うのもあるにはある。しかし、それよりも彼の、というか、その時ブリッジにいた全員の視覚を刺激したのは、その白い頬に殴られたような痕があったことだ。かなり赤くはれていたので、相当強く殴られたと思われるのに、彼女は平然と名乗り、そしてキーランの作戦に同意を示した。

 後から聞いたところによると、ブルーベル『少佐』はキーランの作戦を受け入れるべきだ、と司令官に強く進言したらしい。しかし、司令官は受け入れず、彼女を殴りつけた。その瞬間に旗艦が攻撃を受け、艦体が揺れた。司令官はそのまま気絶した……とのことだ。後半部分に関してはブルーベル『少佐』の証言と他のブリッジ・クルーの証言が一致しているため、おそらく事実だろうと言うことになった。しかし、ブルーベル『少佐』は、自分が殴られた件については、司令官の腕がたまたま当たっただけだ、と言っており、ブリッジ・クルーとの証言が一致しなかった。そのため、保留となったと聞いている。

 上官が部下を殴ることはないとは言えない。軍隊とはそういう場所だ。しかし、本当に殴られたのであれば、彼女は上官を摘発するべきだっただろうと思う。


 結局、ブルーベル『少佐』の方が上官の意見に逆らい指揮系統を混乱させたとして降格処分を受け、ブルーベル『大尉』となった。おそらく、誰かに処分を下さなければ示しがつかなかったのだろう。そして、人事が気を利かせたのか、第五機動艦隊から移動になり今彼女は、第八特別機動艦隊で副官をしている。

 オリガは、副官として優秀だった。戦術や戦場運用についても広範な知識があり、相談相手としてもよい。ただ、それでも苦手意識はあるけど……。


 たった二週間で多くの迷惑をかけているとも思う。オリガの先任の副官に、


「代わりの副官が来ますけど、迷惑ばっかりかけちゃだめですよ!」


と注意されてはいたのだが、実行するのは難しかったと言うことだ……。


 ちなみに、二週間前に移動した彼のもともとの副官は、昇進して戦艦の艦長などをしているらしい。最前線に送られたようだが、今のところ壮健だそうだ。

 話を今の副官に戻す。おそらく、彼女が指揮を引き継ぎキーランに同調しなければ、第五機動艦隊は生き残れなかった。その判断力から、キーランは彼女を高く評価していたが、やはり、それとこれとは別だ。

「少将、いかがされましたか」

「いや、なんでもないよ。大尉、演習予定宙域まであとどれくらい?」

「約二時間と言ったところです」

 艦隊演習を行うには、どうしても軌道エレベーターや資源衛星から距離を取る必要があった。キーランは息を吐くと言った。

「三十分ずつ交代で休息とする。全クルーは予定時間の一時間前までには所定の位置についていること。大尉、全艦、全クルーに通達」

「了解しました」

 オリガが指示を出した後に、キーランは彼女に言った。

「三十分だけ、君に艦隊指揮権を預ける。少し眠るからよろしく」

「少将、さすがにそれは……!」

 みなまで聞かず、キーランは彼女に指揮権を預け、もとい押し付けると艦内の自室に向かった。寝不足気味で、頭が痛い。このまま演習に参加するのは危険だと思われるのだ……と言い訳を並べてみるが、実際はただ眠いだけだ。


 混乱極まる戦場で、冷静に指揮を執っていたオリガだ。航行中の指揮権移譲は問題ないもの、と判断した。何事もないだろう、たぶん。

 本当に私室に戻ったキーランは、ぐっと伸びをする。ブリッジと違い、住居区画は重力ブロックになる。なので、キーランはぱたんとベッドに倒れ、そのまま目を閉じて、寝た。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


今日中にもう1話上げます。


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