鋼鉄の最強妹は異世界から来るそうですよ?
突然のトラック。
横断歩道を渡ろうとしたところ、信号無視のトラックが――という、よくある話だ。
「あっ死んだ」
僕、井野 幸太郎は状況判断も諦めも早い男だった。
反射的に目を閉じてよかった。最後の光景が迫りくるトラックというのはいかにも悲しい。
「長生きしたかったなー。あと彼女が欲しかった」
それも今となっては叶わぬ夢だ。人の夢と書いて儚い。
「夢と言えば、トラックだしワンチャン異世界転生とか……てか、長くない?」
走馬灯にしても随分悠長なような。
それとも、もう死んでいて賽の河原に立ってたりするんだろうか。
……恐る恐る、目を開ける。と、
「ご無事ですか、お兄様」
視線のやや下に、僕をお兄様呼びする見知らぬ女の子。
両手を前に差し出し、まるで今しがたトラックを止めたような様子。
「う、うん」
「良かった」
微笑む女の子。正直かわいい。
「さ、行きましょう。ここは邪魔になります」
僕を押すようにして、横断歩道を渡らせる。
トラックの運転手(40台位の、いかにも疲れてそうなおじさんだった)が信じられないような顔をしてこっちを見ているが、女の子がそちらに向き直り手を振ると走り去っていった。
――ちょっと顔が引きつっていたような気がする。
トラックを見送ると、女の子はこちらに向き直った。
「では、改めて。――はじめまして、お兄様」
ちょっとだけ照れたような様子で。スカートの端を摘む、優雅なお辞儀をしてみせる。
「私は型式番号QTX-0025、通称ニコ」
「お兄様の、妹になりに参りました」