薔薇の姫
先日、みすぼらしい薔薇を見つけました
うす汚れた一輪の薔薇です
私が毎朝通る、白壁と瓦屋根の連なる細い坂道の脇には
さくら草の群れる低い生垣も続いています
今まで気づきもしませんでしたが、ちょうど私の腰くらいの位置に
うすい桃色の花が一輪だけ
まっすぐと貌をあげていたのです
きっと着物の帯によく映えるだろう色の花弁は
どうしてか、煤に汚れていました
この道を車は通れないはずなのに
花弁はよく見れば、端が散れぢれでした
うねる枝とそこから伸びたいくつもの棘を見て初めて
それが薔薇だと気づくほど
みすぼらしい薔薇でした
きっとこの薔薇は、花の国から逃げてきたお姫さまです
さくら草たちがひっそりと匿っていて
それが今日ついに、この私に知られてしまったのです
だって、この薔薇はこんなにもみすぼらしいのに
同じ色をしたさくら草が頭を垂れるほど、輝くように咲いていたのです