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黒き鋼の巨人  作者: 機人
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会敵

「あ〜、疲れた〜。」


「私も、もうへとへと…。」


里沙と二人でフラフラと地面に尻餅をつく。二人とももう汗だくだ。

あれから数週間が経った。足の傷が治った俺は即日軍に入隊。それからは毎日みっちりとしごかれている。


「だらしないぞ、二人とも。」


頭上で声がする。


「そういうお前だって、足がガクついてるぞ。」


声を掛けてきたのは同期のアンドレ。部屋が同室ということもあり、よくつるんでいる。

「それよりも、聞いたか?そろそろお前たちも適正試験を受けるって話。」


「あー、聞いた聞いた。つか、それ今日だし。」


「何?それは本当か?」


「そうだよ。今日二人ともだって。逡也君と一緒に受かるといいなー。」


「そうだなー。」


「お前たちなぁ、適正試験はそんな甘いもんじゃないんだぞ…。そもそも、こんなに早く適正試験を受けるなんて異例中の異例だぞ…。」


「そうなのか?」


「そうだよ!全く…。」


アンドレがぶつぶつと愚痴を言っている。


「おーい、嶺機訓練生、横嶺訓練生。」


「中佐!お久しぶりです!」


久しぶりにパーシング中佐を見た。


「うむ、なかなかいい面構えになったじゃないか。今日の試験は私が監督させてもらう。私は正面で待ってるから、着替えてきなさい。」


「「了解しました!」」


「ではな。」


中佐の後ろ姿を眺めていると隣でアンドレが信じられないものを見るような顔でこちらをみていた。


「…お前たち、本当に何者だ?今の、パーシング中佐だよな?」


「あ?そうだけど。すごい人なのか?」


「…すごい人、っていうのは確かにそうだけど。色々と噂に事欠かない人だ。」


「色々って何?」


里沙も興味津々だ。


「何でも、裏で秘密兵器の開発をしてるだとか、敵のある部隊に異常に執着してるとか、そんな感じだな。」


「ふーん。」


「ま、いいや。行こうぜ、里沙。」


「うん。」


「んじゃ、また後でな。」


「おう。後で話聞かせろよ。」

中佐に連れられて地下へと降下していく。


「そういえば、結局ここって何なんですか?こんな深くて広い穴、何のために。」


「ここは正式にはカテドラルと呼ばれるところでね。かつて小惑星から身を守るために作られた巨大シェルターさ。」


「これが、シェルター?」


「ああ。やけに居住区画が多いのもその名残だ。」


「中佐、あれって何なんですか?」


里沙が指を指した先には、巨大な船のようなものがあった。


「ああ、あれは航空戦艦だ。ストライカーの空での発信プラットフォームを兼ねている。」


「ストライカー?」


「後で説明するよ。」


エレベーターを降り、直進していくと途轍も無く広い空間に出る。


「すげえ…!」


さっきみた戦艦が三隻、それよりも小型のものが見える限りで二十はある。


「壮観だろう。だが今日の目的はこれじゃない。こっちだ。」


少し歩いた先、そこにそれはあった。


「嶺機訓練生は一度見たことがあったな、紹介しよう。これが現在我が軍で使用されている統合型戦術機甲歩兵…通称ストライカーだ。」


目の前に巨大なロボット…ストライカーが現れる。


「これは現行の主力機体のMF-7cだ。火力、速度、その他諸々において他の同一世代機とは一線を画している。そして、君たちが乗ることになるかもしれない機体だ。」


「俺たちが…、これに…。」


「ふわぁー…。」


「まあ、試験を通ることが出来たらな。ついてこい。」


「は、はい。」

『あーあー、聞こえるかね?』


「はい。大丈夫です。」


『結構。君が今いるのは、実際の機体のコクピットを使ったシミュレーション装置だ。操縦の基本は教わっているだろう?』


「ええ、一応は。」


『それは自分の操作に応じてコクピットが実際に動くようになっている。少し動かしてみてくれ。』


レバーを軽く動かしてみると、体が左右に揺さぶられる。


『これから君にやってもらうことを言うから、心して聞くように。』


「はい。」


『まずはじめに右手に持っているマシンガンを構え、正面に出てくるターゲットを撃ってくれ。』


「了解。」


マシンガンを構え、出てきたターゲット…あれもストライカーだろうか?に射撃を行う。


『よしよし、いい感じじゃないか。次。』


今度は少し遠くに出現したターゲットに対して射撃を行う。これも命中。


『次は近距離戦だ。マシンガンをマウントして長刀を装備。』


言われた通りにマシンガンを腰部にあるジョイントに固定し、背部マウントから刀を取る。


『ではターゲットを…。』


その後も基本的な操作を行う。訓練所で学んだからか、それほど操作に苦しむことはなかった。


『では、これから試験を始める。』


目の前の映像が切り替わり、どこかの森のような場所に切り替わる。


『君にやってもらいたいことはただ一つ。そこから10km先の目標地点まで辿り着く、それだけだ。』


「本当にそれだけでいいんですか?」


『無論敵は出てくるから、それに対処してもらう。ただ忘れるな。君のやることはあくまでも目標まで辿り着くことだ。』


「了解。」


『では、始め!』

「そこ!」


不思議な感覚だった。初めてこれを動かしているのに、どうすればいいのかわかる。

視界の端に現れた影に向かい二、三発射撃する。ただそれだけ。しかし、確実に撃墜できていると言う確信があった。

移動だってそうだ。入り組んだ木々の間をブースターを全開にしながら少しだけスラスターを偏向するだけで越えていける。激しくコクピットが揺れるがまるで揺りかごで揺らされているかのように心地いい。

出会い頭にこちらに突っ込んできた敵を刀で両断すると、爆発すら遥か後方に置き去りにしてしまう。


「…見えた!」


マップに示されている地点に到達する。


「こちら嶺機機、目標に到達しました。」


そういった後で嶺機機というのはなんとも語呂が悪いと思った。それくらい、今の試験は自分にとって簡単なものだった。


『…おぉ、凄いな…。』


中佐の本当に驚いたような声が聞こえる。


『いや、素晴らしい。』


「それで、試験の方は?」


『まあ、待ちたまえ、それは後ほどだ。…時に嶺機訓練生。』


「はい?」


『随分と余裕のようだが、時間にも余裕があることだし、少し遊んでみる気はあるかね?』


「遊び…ですか?」


『ああ。きっと君も楽しんでくれると思うよ。』


「はあ…、わかりました。お願いします。」


そうこなくてはな、と中佐が言った瞬間、また映像が切り替わる。そこは、破壊されたビルが並ぶ廃墟だった。


「ここは…?」


足を踏み出した瞬間、視界の端を影がよぎる。

無意識のうちにマシンガンを向け射撃をするが、そこには何もいない。


「…なんだ?」


その瞬間、後方からの接近を知らせるアラートが鳴り響く。

しまった—!

振り向くと同時に左腕が弾け飛ぶ。


「くそっ!」


ブーストをかけ思い切り後方にジャンプする—が、しかし。足が接地した時にはすでにマシンガンの前半分が目の前に吹き飛んでいた。


「なんなんだよ、こいつ!」


刀を取ろうとする—しかし、その手は空を切った。背部マウントとブースターが切断されている。

コクピット内では損傷を示すマーカーが全身に広がり、アラートが止むことなく危険を知らせてくる。

足が、頭が、胴体が—。

どんどんと細切れにされていき、視界が一つ、また一つと沈黙していく。

最後に、カメラに映った敵の機体。

暗緑色の機体は、まるでこちらをあざ笑うかのように刀を振り下ろした。

「…。」


自惚れていたのかもしれない。最初うまくいったからといって、その後があれでは…。」


「二人とも、ご苦労だった。」


「ふぅー、すごく疲れたよ…、逡也君、どうだった?」


「…。」


「逡也君…?」


「あー、嶺機訓練生大丈夫か?」


「はい、大丈夫です…。」


「まあ、そう気を落とすな。」


「…本当の戦闘じゃ、あんなのが当たり前なんですか?」


「えっ?どういうこと?」


里沙が分からないといったような顔をする。


「…嶺機訓練生、君はよくやった。アレに関しては気にするな。あんなもの、最初からどうにか出来たら苦労はしない。」


「…じゃあ、一体あれは…。」


「…死神、我々の中では奴のことをそう呼ぶものもいる。」


「死神?」


「奴は中隊を率いてこちらの戦艦を沈めたこともあるような奴だ。そしてその中隊はバーゲスト…北欧に伝わる死を招く獣になぞらえてそう呼ばれている。私は、あの死神を討ち取りたい。」


「…死を招く、獣…。」


「嶺機訓練生、横峰訓練生。」


「ハッ!」


「…はい。」


「私は、諸君らに期待をしている。膠着している今、新しい風が必要なのだ。君達なら、もしかしたら死神を討つことが出来るかもしれない。そう思っている。」


「…俺たちに、出来るでしょうか?」


ドクンと心臓が音を立て、体が熱くなる。


「やってもらわねば困る。そうそう、結果を伝えていなかったな。嶺機訓練生、横峰訓練生。心して聞け。」


「「ハッ!」」


「…二人とも、文句なしの合格だ!二人には訓練所卒業ののち、新設される私の部隊に入ってもらう。…奴を討つための部隊にな。」


「「了解!」」


「うむ。頼むぞ、二人とも。…そうそう、部隊の名前だが、もう考えてある。」


「名前、ですか?」


「ああ。我が部隊の名称。それは…。」


唾を飲み込む音がやけに頭に響く。


「獣狩り(ビーストハンター)だ。」


…。


「いや、それはちょっと…。」


「わ、私も、それはどうかと思います…。」


「な、なんだと!これでも昼食を食べながら上の空で考えたんだぞ!」


「それ考えてないですよぉ!」


中佐と里沙がやいやい口論している。


「中佐のネーミングセンスは置いておいて、これで俺もストライカーに乗ることになったんだ。目標は遥かに高いけど、やってやるさ。

俺は全身に漲る力を感じていた。





「待ってください隊長!なぜ私が配置転換を!」


「パーシング中佐からの直々の要請でな、なんでも新しい部隊を作るらしい。その初期メンバーとしてお前が選ばれたというわけだ。」


「そんないきなり…。」


「軍人ならば上の命令に逆らうな。もういい、行け。」


「…っ!失礼、します!」


これでもかというくらいわざとらしく軍靴を鳴らしながら退室しようとする。


「ストライダー軍曹。」


「…はい。」


「…頑張れよ。」


…隊長は卑怯だ。こんな時だけ、こんな…。

「…了解、しました。」


…とりあえず、中佐に会いに行こう。話はそれからだ。

私はカテドラルへと歩を進めていった。

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