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黒き鋼の巨人  作者: 機人
4/19

世界

「驚いたよ、まさか里沙がいるなんて考えても見なかったから。」


「私もだよ…。」


休憩所で里沙—俺の幼馴染と向き合って話す。


「二人とも、何か飲み物はいるかね?」


「あ、えっと…。」


「紅茶を頂いてもいいでしょうか?」


「…俺も、お願いします。」


「ふんふん。君らは紅茶が好き、と。なるほどなるほど。」


パーシング中佐が機械を操作すると程なくして紅茶がコップに注がれた。


「さあ、飲むがいい。ミルクと砂糖は?それともレモンを入れようか?それともジャムがいいか?君らの年では少し早いかもしれんが、ブランデーという手もあるな。」


「いえ、いいです。」


「…私は、ミルクと砂糖をお願いします。」


「ん、分かった。」


そういうパーシング中佐は砂糖とよくわからないものをドバドバとコーヒーに入れている。


「少し長くなるからな。飲みながら聞いてくれ。」


「はぁ…。」


紅茶に口をつける。


「…ん?」


なんだ?この紅茶、味が変というか、ものすごく薄いような気がする。


「では、まずはじめに心して聞いてくれ。」


「はい。」


パーシング中佐が真剣な顔つきになる。


「簡単にいうとだな、世界は一度滅亡した。」


「ぶっ!」


思わず紅茶を吹き出してしまう。


里沙はひゃ!とか言いながらそれを避けているが、パーシング中佐はお盆を構えてガードしている。


「すまんすまん。やはりびっくりさせてしまったな。」


「そりゃびっくりしますよ!いきなりそんなこと言われたら誰だってそうですよ!」


「そんなことはないだろう。現に彼女は口に含んだものを異性に向かって吹きかけて興奮する異常性癖は持ち合わせていなかったぞ。」


「そんなもん俺だって持ってません!」


「お、落ち着いて…。」


里沙がオロオロとしながら宥めてくれる。


「はぁ、はぁ。…すいません。詳しく教えてもらえませんか?」


「うむ。では最初から話そう。君らは確か、2000年の初期の頃にいたんだろう?」


「はい。それが何か?」


「今は…、そうだな。西暦で数えるところの214…8か9年だな。」


「…は?」


「つまり君らは100年くらい前からここにきたことになるな。私の大先輩だ。」


「状況が飲み込めません。それに、西暦でいうと、ってなんですか?」


「そこだよ、重要なのは。ここに現在の世界の地図がある。見てくれ。」


「これって…、どういうことですか!冗談ならやめてください!」


「真実だよ。」


目の前にある地図には、あるべきものがなく、ないはずのものがあった。


「地球は小惑星の直撃を受けて滅亡の危機に瀕したのだよ。」


かつてはインドやパキスタン…中央アジアと呼ばれた場所には巨大な円形の海が広がっていた。


「大変だったらしいよ。衝撃波やら津波やらで生態系は無茶苦茶。全生物種のおよそ67%が絶滅。太陽光が分厚い雲に阻まれたことによる数年間続いた冬。海水に浸かったことによる塩害、地殻変動。インフラの致命的な打撃による社会秩序の消滅…、いや、そんな状況を生き抜くための新しい秩序の構築。そんなことが20年続いたらしい。それが2083年間の出来事だ。


「ちょ、ちょっと待ってください。」


本当にそんな大きさの隕石が落ちてきたら地球上の生物が絶滅していてもおかしくない。それに、それだけの被害、たった60年かそこらでなんとか出来るようなものなのだろうか?


「一応世界中の頭を寄せ合って被害を最小限に抑える努力はしたらしいがね。」


「努力でどうにかなるものなんですか?」


「なったから今があるのだろうよ。そこらへんは今はまだ詳しく知らなくてもいい。一応軍の機密情報だからな。」


「…。」


ここまで話されて諦めろというのは若干腑に落ちない感じがしないでもない。


「…では、本題に入ろうか。」


一気に空気が変わる。

里沙だけがあはは…と乾いたように笑う。


「君、軍に入らないかね?」


「…なぜ、そんなことを?」


「君は今どういう状態か分かるかね?」


「どういう…状態…。」


しばし考えを巡らす。

今は俺たちの時代よりもはるか未来で、世界は一度崩壊している。そして数日前にみたあの光景…。


「まさか…資源を取り合って人間同士で戦争を…?」


「正解だ。君はなかなか頭の回りは悪くなさそうだね。」


パーシング中佐はわーと拍手する。ついでに里沙も拍手する。


「まあ、それに加えて君達は今無国籍状態。つまりは不法滞在者みたいなものだ。君らが路頭に迷わないためには、これが一番手っ取り早い。」


…なるほど。


「さて、それではもう一度聞こう。軍に入らないかね?」


入らないか、と質問のような形をとってはいるが、入らなかったら身の安全は保障されない、と言われているようなものだ。


「…里沙は、どうして軍に入ろうと思ったんだ?」


「え?あはは…特に、深くは考えなかったかな…。」


軍に入ったら、人を殺したり、殺されたりする。そんなことを今この場で承認などできるものだろうか。


「私は、ただ…今この時を一生懸命に生きていたいだけ。」


「え…?」


「確かに、いきなりでびっくりしちゃったけど、それでも変わらないものはあるよ。自分の人生を、頑張って生きていきたい。だから、私はえらんだんだよ。」


「…パーシング中佐。」


「決まったかね?」


「俺を…軍に入れてください。」


「覚悟は決まったのかね?」


「はい。少なくとも、グダグダと考えているよりも、目の前のことに打ち込んでいた方がいいと思います。」


「うむ。よく引き受けてくれたな。処理については任せておきたまえ。君の怪我が完治次第入隊できるようにしておこう。」


「怪我?逡也君怪我してるの?」


「ま、まあな。」


銃で撃たれた、なんてことは黙っておこう。


「取り敢えず今日のところはこれくらいにしておこう。横峰訓練生、戻っても構わんぞ。」


「ハッ!了解しました!」


里沙がビシッと敬礼をする。


「…。」


その姿にポカンとしてしまう。


「里沙、随分慣れてる感じだけど、ここに来て一体どれくらい経つんだ?」


「え?私は三週間くらいかな。」


「どうも、君達は同じところから来たと言っても全員が全員同じとき、同じ場所に現れるようではないらしい。つまりはこれからも増える可能性があるということだ。その時は君達にも手伝ってもらうよ。」


「了解しました。」


「あ…了解、しました。」


「それでは戻ろうか。傷が治るまでは、医務室にいてもらうからな。」


「はい。」


「それでは、失礼します。」


横峰が立ち去る。


「…ところで。」


「はい。」


「彼女は、君のコレかね?」


パーシング中佐が小指をピンと立てる。


「違いますよ。」


「そうか。残念だ。」






取り敢えず、教官に挨拶はしておこう。

そう思い訓練所に足を運ぶと、綺麗な銀色の髪の女性が前から歩いてくる。おそらくパーシング中佐だろう。…その後ろにいる男は誰だろう?


「パーシング中佐!お久しぶりです!」


「ん?おお、ストライダーそうち…いや、軍曹。久しぶりだな。教官に挨拶でもしに来たのかね?」


「はい…!あなたは…!」


「彼は、嶺機逡也。例の民間人だ。」


「ど、どうも。」


この男が…!


「…足を撃ってしまったことについては謝ります。…しかし元はと言えばあなたが…。」


「まあまあ、彼にも事情があったんだ。言いたいことは山ほどあるだろうが、何分まだ完治していないのでな。後ほど機会は設けるから、今日のところは我慢してもらえんか。」


「…了解、しました…。失礼します。」


今日のところはパーシング中佐に免じて諦めよう。


なるべく男を視界に入れないようにしながら私はその場から立ち去った。

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