旅立ちの時
数日後、大会で優勝し、見事自由を得たアクレイは旅支度を整え、別れの挨拶をするべくガシオン公の元に参上していた。
「…これは」
「持っていくがいい。これはそなたのものだ」
ガシオンがアクレイの前に用意したのは優勝賞金の金貨が詰まった袋だけではなかった。
それは一振りの剣。しかもそれはスクードが最期に使っていた剣だった。
「ガシオン公」
アクレイはうなずくと鞘に収まったその剣を手にする。
剣など今の彼にとってはもはや手足のようなもの。しかし、それが今日はやけに重く感じる。
「…彼がそなたに託したもの、忘れるでないぞ」
「…ああ」
アクレイは短い沈黙の後、そう言い、受け取った剣を腰に下げる。
「もう行くのか」
「世話になった」
ガシオンの問いにぶっきらぼうに答えるアクレイ、しかし、その目にはガシオンと出会ったころにあった暗さはみじんもない。
「気にすることはない」
ガシオンはそんなアクレイの姿を満足げに見ている。
「それでガシオン公、スクード・ルジャの事だが」
「分かっている。彼の事は任せておけ」
スクードの墓はアクレイの頼みにより街のそばの小高い丘に埋葬されることとなった。そこは空が晴れていれば彼の妹が住むという北の島国『ノル・レインテ』の大地が見えるという。
「すまない、感謝する」
謝意を口にするアクレイにガシオンは笑みを浮かべ
「アクレイよ、いつでも戻ってこい。この町はいつでもお前を歓迎するだろう」
その言葉にアクレイは黙ってうなずくと身をひるがえし、その場を辞する。扉が閉まりその姿が消えてもなおガシオンはそのまなざしをそらすことはなかった。




