託されし願い
一方、エダ・イスパーの心は虚無の中をさまよっていた。
故郷も家族も、恩人さえも失った彼の心にはもはや何も残ってはいない、そう彼は思っていた。
しかし…そこに一筋の光が瞬き、ふと彼は顔を上げる。
そこにいたのは自分の方へと迫りくる幾多の魔物と、その間に立ちはだかっているのは一人の少女。
彼女は震える手で剣を握り、魔物ではなく剣の重さと戦いながら、全てを失った自分を魔物たちから守ろうとしている。
なぜ?どうして?そう思いながら、その頼りなげな後姿を見た彼の脳裏にあの日の光景がよみがえってくる。
そう、目の前にいる少女はあの時の自分自身の姿。それを見た彼の胸中に今までどんなに考えても思い出せなかったあの日、ルアンナが発した最後の言葉が鮮明によみがえってくる。
それは…それは……
「生きて…お願い…あたしたちの分まで生きて」
それが思い出された瞬間、彼の脳裏にこれまでの出来事が蘇ってくる。
自分を救ってくれたガシオン公。
世界の広さを伝えてきたあの白い装束の詩人。
忠告してくれた名も知らぬ剣闘士。
自分に命とそれ以外の物を託したスクード。
そしてこの少女。思えばこの少女はずっと自分を見ていたような気がする。
分かっていた。本当は分かっていた。皆が自分を生かそうとしていた事を。しかし心が耐えられなかった。故郷も親も、親しい人を誰も守ることも救う事もできず、皆死んでしまった。なのに自分だけが生きている、そのことに耐えられなかった。
だから、せめて仇を討とう。仇を討ってから皆のところに行こう。そう考えたのかもしれない。
だが、スクードが、村の皆が、ルアンナが…自分に対して生きる事を望んだというのなら…このまま彼らのところに行くわけにはいかない!