始まる狂乱の宴
騒然が茫然に、そして恐怖へと変わるのにさほどの時間はかからなかった。
姿を現した魔物は一匹やそこらではない。
牛頭大男を始め、怪力と手にした棍棒が恐ろしい巨躯鬼人に巨体に加えて驚異的な再生力を持つ巨躯鬼精といった大型の亜人間型の魔物。
それに加え、小ぶりで醜悪な外見だが粗末とはいえ剣や盾を持ち、徒党を組むと厄介な悪戯鬼やそれよりも更に小ぶりで粗末な武器を持つ悪戯子鬼といった子鬼型の姿もいる。
それらが大挙して自分たちの元へとにじり寄ってくる。それを見た観客達は恐怖に支配され、我先に逃げ出そうとし、通路は人であふれかえる。
「おい!早くしろ!」
「押すな!つかえているんだ!」
「おかあさーん!」
「ぼうや!どこ!」
恐慌状態で通路に殺到した観客たちは押し合いへし合いになり、怒号が飛び交いだす。
兵士たちも突然の事態に右往左往するばかり。
そして荒事になれているはずの冒険者たちも皆、武器を預けており、丸腰の状態。しかも、武器を取りに行こうにも通路は観客たちによって塞がれている。
その様を見たビアトロは事態の深刻さを悟る。
このままではこの場にいる全員が魔物に殺されてしまう。
冒険者たちが武器を手にするまでの時間を稼がなければ。だが、その前に動揺する観衆を落ち着かせなくてはいけない。
それが出来るのは…出来るのは……
「ビアトロさん!」
「…ラト、危ないから下がっていなさい」
ビアトロはそう言うと表情を引き締め、一歩踏み出すと外套をひるがえして懐から竪琴を取り出す。
よく見るとその竪琴には青く輝く宝石が一つ、はめ込まれている。
そして彼は観客席へ続く階段に近付く魔物達を見下ろすと、心を落ち着けながら竪琴に指を走らせる。
…その時、その青い宝石が一瞬、まばゆく輝いたようにラトの目には映った…