失われし輝き
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
スクードの絶命を悟ったエダは絶叫する。
また失ってしまった。
あの時もそうだった、あの、平穏がずっと続くと信じて疑わなかった村での日々が終わりを告げたあの日。
二度とあんな思いはしたくなかったのに。
人目もはばからずに泣き崩れるエダ。その光景をビアトロとラトは大勢の観客らとともに見守っていた。
「…エダ」
「ラト」
ビアトロの声を聞いたラトは振り返ることなく呟く。
「ビアトロさん、あたし変だよ。エダが勝ったのに、生き残ったのに、全然嬉しくない」
それはビアトロも同じだった。
あの対戦相手は他の剣闘士たちとは違う、エダにとって特別な知り合いだったのだろうか。だとしたら、そんな人物を手にかけてしまった彼の心は…
お互いに言葉も無く、立ち尽くすビアトロとラト。
だが…その時、異変が…起こるはずのない事が起きる!
「なんだ…?」
地響きが闘技場全体に響き渡り、入退場に使う階段が現れる。だが、そこから現われたのは人ならざる存在、魔物(ファルダ―)たち!
しかも、それだけではない。闘技場とそこを見下ろす観客席を隔てる壁の前にも階段がせりあがり、観客席と闘技場が地続きとなる。
「こ、こんな仕掛けがあったなんて」
騒然となる観衆。
「いかん!」
「いったいどうして」
貴賓席にいたガシオン公と観客席にいたビアトロが同時に声を発する。
「まさか」
ガシオン公の脳裏に幾人かの人物の顔が浮かぶ。だが、彼は首を振り、目の前の出来事に意識を傾ける。
「ガシオン公!」
「わたしの剣を持って来い!」
公は手近にいた側近に対しそう言い放つ、と側近は身をひるがえし、直ちに奥へと姿を消す。