砕けし刃、砕けし心
手に伝わる手ごたえ、それは…あるはずがないものだった。
そして、次の瞬間エダが手にしていた剣が音を立ててへし折れ、そして…乾いた砂地に赤黒い染みがいくつも生まれる。
自分でも何をしたかわかっていない。考えるより先に体が反応した、そうとしか思えなかった。
我に返ったエダが見たのは、自らの剣の刀身が突き刺さったまま足元に倒れた恩人の姿。エダの手から刃の折れた剣が離れ、彼はその場でがっくりとひざをつく。
「…よくやった…さすがだ」
仰向けで倒れたスクードはしばし自分に突き刺さった刃を見ていたが、やがて放心状態のエダの方へと顔を向ける。
「ど、どうして」
「…俺より…お前の方が…強かった、ただ…それだけさ」
口元から血をにじませながらスクードは声を発する。
「そんな事は」
「…今のは…俺の切り札…こいつを破ったのは…お前が最初…そして、最後だ」
エダの言葉を遮り、スクードが発したその言葉に彼は小さく身を震わせる。
「これで…ようやく…返せるな…お前から…奪った…大事なものを」
「大事な…もの?」
顔を上げるエダ、その顔を見ながらスクードは言葉をつづける。
「…『生きる事』さ」
その一言にエダの表情が凍る。だが、彼に構うことなくスクードはさらに続ける
「確かに…俺は…お前に…戦う術は…教えた…けどな…代わりに…生きる事の…大切さを…忘れさせて…しまった」
息も絶え絶えにそう言いながらスクードはエダから目をそらし、目の前に広がる空を見上げる。
「…生きる事…っていうのは…誰かの命を…奪うって事…そして…命一つ…一つには…生きてきた分の…重み…というのがある…だから…命を奪うって…いうのは…その命の重みを…背負うこと…なんだ……だからこそ…その命は…大事にしないと…いけない」
エダは答えない。だが、スクードは構わず続ける。
「だから…俺の命を…お前にやる…でもな…それで…お前を…縛るつもりは…ない…これはおれが…勝手にやったこと…なんだから」
「どうして、そこまで」
絞り出すように問い掛けるエダ。スクードは再び彼へと目をやり。
「…俺には…子がいない……けどな…いつしか…お前が…俺にとって…子供のような…存在になっていた…のさ」
「…俺も…俺も…あんたの事…父親の様に…思ってる」
エダの言葉を聞いたスクードは口元をを震わせながら、わずかに笑みを浮かべる。
「…そう思って…くれるんなら…その命…大事に…してくれ」
再び沈黙するエダ。そんな彼にスクードは…
「エダ…世界は広い…もっと…いろんなものを見ろ。帰る場所が…無いっていう…おまえにも…きっと…どこかに…ある…はずだ、
でも…もし…それが…見つから…なかったら…俺の代わりに…あいつらを…守ってやってくれ…そこが…お前の…帰る場所…さ」
その言葉に込められた意味を悟ったのか、エダの身体が大きく震える。それを見たスクードはなぜか一度だけ観客席の方へと目をやった後、再び大空へと顔を向け、穏やかな表情を浮かべる。
「…ああ…そうか。
…あんたが…言っていた…言葉の…意味が…ようやく…わかったよ。
後を…託せる奴が…いることの…意味を」
スクードの言葉から急激に力が失われていく。だが、彼はそれでも言葉を紡ぐ。
「…戦の神…フェ…テシュ…よ…この…若者に…どうか…加護…を」
それは、いかにも戦士らしい言葉。それを言い終えるとスクードは、ゆっくりと目を閉じ、そして彼は、冥府の神の御前への道を踏み出す。




