届かぬ想い
ここから四章の開始となります。
日は傾き、西日が東側の観客席に差し込みだす。
遂に大会は大一番、決勝戦を迎えた。
大歓声が闘技場全体から沸き起こり、闘技場そのものが揺れている様にさえ感じる。
そんな中、ビアトロの表情はさえない。
ガシオン公は言った、この大会が彼の最後の舞台になるかもしれないと。
あのスクードという剣闘士の事はよく知らないが、ここまで勝ち上がってきた以上手練れであることは間違いない。
だとしたら今度こそ、本当に…
汗にじむ拳を握りしめながら考えを巡らせていたビアトロはふと、ラトの事が気がかりになり、彼女の方を見る。
彼女は思いつめた表情をしていたが、突然駆けだすと観客席の縁へと駆け寄り、身を乗り出し、叫ぶ。
「エダ!頑張って~!」
だが、その声援は大観衆の歓声にかき消されてしまう。
それでもラトは声を上げ、あらん限りの声で叫び続ける。だが、やがて彼女は肩を落とし、席に戻ってくる。
「悔しいよビアトロさん、今のあたしには…これくらいしかできないなんて」
沈んだ声でそう言うラトにビアトロは首を振る。
無力さを味わっているのは彼も同じだった。目の前にいるこの少女を励ますことも慰める事も出来ない、出来るのは…ただ、エダが目覚める事を神に祈ることのみ。
だが、いかなる神に祈ればそれが叶うのか…それすらビアトロには分からず、彼は拳を握り締める事しかできなかった。