背負いし負債
スクードが控えの間に戻ろうとする…と、通路でエダに出会う。
「やっぱり俺とあんたが残ったか、どうやらこれで皆の元へと行けそうだ」
エダの言葉にスクードは答えない。しかし彼は言葉を続ける
「これで本当に最後になるだろうから言っておきたい、ありがとう。あんたのおかげで俺は皆の敵をとることが出来た」
「…いや、礼を言うのはおれの方だ」
ややあってスクードは重い口を開く。思い当たる節が無いのか首をかしげるエダ。そんな彼にスクードは続ける。
「お前はあいつを救ってくれた」
「あいつ?」
「お前の仇、ブルだ」
その言葉にエダの表情が変わるが、スクードは構わず続ける。
「俺はあいつのことをよく知っている。昔の仲間だったからな」
エダは何も言わず、黙ってスクードの言葉に耳を傾けている。
「あれはまだ俺が駆け出しの頃…そう、ファルテス教団との戦いが続いていた時代の話だ。俺たちは『ソル・ベルク』がシュベーロス山脈に築いた城に立てこもり、抵抗を続けていた。
守りは堅固、いくらでも持ちこたえられるはずだった…」
そこでスクードは一息つき、何かを押し出すようにさらに言葉をつづける。
「だが、あいつによってそれは崩れた。あいつは敵にそそのかされて食事に毒を盛り、多くの仲間の命を奪った」
その時スクードの握っていた拳がより強く握りしめられるのをエダは見た。
「あの時、あいつの言動に得体のしれない危険を感じた俺と仲間の数人だけが手を付けず、難を逃れたが、それがきっかけで城は落とされ『ソル・ベルク』は教団の侵攻を許すこととなった」
エダは何も言わず、スクードの昔語りに耳を傾けている。
「その後、俺はある人に助けられ、生き延びた『ソル・ベルク』の仲間たちと共にストレ・フランジの森に潜み、そこに住む妖精達と協力して神出鬼没の遊撃団として教団と戦っていた」
そこでスクードは一旦、息をつく。そしてややあって再び語りだす。
「俺はあいつをよく知っている。共に剣を学んだ仲間であり、友だった。
あいつは口のいいお調子者だった。しかし、心が弱かった。教団との戦いが激しくなるとしきりに不安を口にだしていた。
多分、そこを教団に付け込まれたんだろうな…」
スクードは遠い目をして明後日の方向へと目をやる。
「教団との戦いが終わった後、俺はあいつが生きていることを知った。そして復讐を誓い、追い続けた。お前と同じに」
そう言ってスクードはエダの顔を見る。エダも視線をそらさずスクードを見つめる。
「自分が狙われている事を知ったあいつは、名をブル・フレッチャーと変え、仮面をつけ裏の世界で生きてきた」
視線をそらし再び明後日の方向へと目をやるスクード。
「あいつがお前に殺されたと知った時、俺は正直安堵した。それは復讐が終わったからだけじゃない。道を踏み外したあいつをようやく救う事が出来た。そうも思ったからなんだ」
そう言うとスクードはエダに対して背を向け、そして告げる。
「それだけの事。要するに俺はお前の復讐心を利用しただけ。礼を言われる筋合いなんてないのさ」
その言葉にエダはしばしの沈黙の後、口を開く。
「それでも、それでも俺にとってあんたは恩人だ。あんたがいなかったら俺は自分を責め続け、何もできずに死んでいただろうから」
「そうか。ありがとう」
そういうと二人は互いに背を向け、歩き出す。最後の戦いの場へと。
ここで三章が終わります。