差し込む一筋の光明
「それにしても、さっき戦っていた若い剣士、迷いを感じたな」
戸惑うラトをを横目に唐突に話を切り替えてくるアルザー。その言葉を聞いたビアトロはふと呟く。
「迷い…もしかしたら私のせいだろうか」
ビアトロの言葉に首をかしげるラト。思慮深げに見つめるアルザー。そんな二人に彼は語る、二週間前の出来事を。
「そうか」
「わたしが余計なことを言わなければ」
「それで命を落とすようならそれまでだ」
その突き放すような態度にビアトロははっ、としてラトの方を向く。
ラトはアルザーを睨むように見上げている。だが彼女はそれ以上な何もせず、その小さな拳は固く握られている。
おそらくアルザーの言ったことは彼女も分かっているのだろう。だが、分かっていても受け入れたくない事はある。
アルザーを見上げるラトの視線は、それを口にした彼に対する無言の非難にビアトロは思えた。
だが…アルザーはそんなラトの視線を意に介することなくさらに続ける。
「あんたが言うように彼はいま迷っているんだろう。生きるべきか死ぬべきか。そういう意味では非常に危うい。
だが、どれは同時にどちらにも転ぶ可能性があるという事だ」
その言葉にビアトロははっとする。確かに彼の言う通りかもしれない。だとしたら…何か、何かきっかけさえあれば。
ふと何かに気が付いてビアトロが顔を上げると、ラトと視線が交わる。
ラトの表情はわずかにほころんでいた。おそらく自分もそうだろう。
一方、二人の心にわずかな希望をもたらした人物の視線は闘技場の方を向いていた。
そこには次の試合に出る剣闘士、スクードの姿があった。
彼の姿を見るアルザーのまなざしにビアトロは引っかかるものを感じ、問い質すと、
「なに、昔のちょっとした知り合いさ」
アルザーはあっさりそう答えると闘技場に背を向け、出口の方へと歩み出す。
「どこへ?」
「ちょいとな。あいにくここへは見物に来たわけじゃないんでね」
ひらひらと軽く手を振りながらそう言うとアルザーはそのまま振り返ることなく去って行く。
「行っちゃった。あの人、何しに来たんだろ?」
「ああ、そうだな」
アルザーの行動に要領を得ず、きょとんとするラト。ビアトロも首をかしげる。




