竜の征伐者
「黒竜の鱗は前に一度だけ見た事があるんだ。似た感じがしたからもしかして、と思って」
「ふむ、なかなかに鋭いな」
その称賛にラトは表情をほころばせる。
「えへへ~でも、こんなの上等金貨千枚、ううん、二千枚あったって買えないわ」
「竜退治の際、手に入れた鱗であつらえてもらった奴だ」
「えぇ!竜退治の経験まであるの!…でも、竜の鱗の加工なんて普通の人じゃ無理でしょ?」
目を輝かせて叫ぶラト、しかしその後は突然、小声になって尋ねると、アルザーもまた小声で答える。
「『山精小爺』の知り合いがいるのでな」
『山精小爺』とは鍛冶神デヒュールの尖兵であり、主に東の国境、妖精が住むとされる広大な森『ストレ・フランジ』とそのさらに東の山岳地帯『シュベーロス』の辺りに住んでいる種族である。
なるほど。アルザーの言葉にビアトロは得心が言った。
『山精小爺』が作った武具は名のある戦士なら喉から手が出るほど欲しい代物。だが、彼らはそうそう人間相手に武具を作ってくれるわけではない。
そうなるとそんな知り合いがいることを大声で話すわけにはいかない。ラトはそこまで察して小声で尋ねたのだろう。
「ビアトロさん、この人何者なの。誰にも言わないから教えて」
ラトにそう尋ねられ、ビアトロは困惑する。確かに彼とは顔なじみではあるが詳しく語るほど彼を事を知っているわけではない。アルザーも自分から何かを語るつもりはないらしく何も言わない。
「彼はアルザー、魔法武器の収集家だ」
なので彼が初めて名乗った際の紹介をそのまま繰り返すしかなかった。
だが、ビアトロは彼の存在はそんな単純なものではないと思っている。
見た目は自分よりも若い様に見える。だが、時々見せる思慮深さ、洞察力は歴戦の勇士そのもの。いったい何者なのか?実の所こちらが聞きたいくらいである。
デヒュール・ルフォ=山精子爺、他のファンタジー世界で言うところのドワーフのような存在。