再会
太陽が天の頂に達し、乾いた砂が敷かれた闘技場の熱さも限界に達したので大会は昼休憩となった。
観客席は高い壁と革製の天幕によって日陰が設けられ 観客たちは席に着いたままそれぞれに昼食をとる。
「みんな頑張っているね~」
観客たちに昼飯を売ろうと奮闘する商人たちをしり目にラトとビアトロはのんびり昼食をとる。
ビアトロはラトから買った小麦練餅と燻製の魚、塩漬け野菜の包みを開き、葡萄酒と共に口にする。
レトンの屋敷での晩餐や宿での食事に比べたら物足りないが、携帯食としては悪くない。
ラトも同じものを口にしているが、まだ子供なので飲み物は葡萄絞汁である。
「ビアトロさん、食べ物足りてる?足りなかったらまだあるよ~」
そう言うとラトは傍らにある袋を指さす。
どうやらまだ在庫が残っているようである。
「いやぁ…もういいかな」
「そっかあ」
そういうとラトは周囲を見渡し、周りの商人たち同様品定め、もとい客定めを始める。
そして、客になりそうな観客を見つけると、とてとてと近づき、交渉に入る。
そんな光景をビアトロはほほえましく見守る。
休憩が終わるといよいよ準決勝が始まる。
第一試合に出たエダは危なげではあるものも勝利をつかみ、決勝へと進出する。そして、第二試合が始まろうとしていた頃。
「久しぶりだな」
ビアトロに対して声をかける人物が。そしてビアトロもまた声の主に見覚えがあった。
「アルザー」
面識のないラトだけが不思議そうにそのアルザーと呼ばれた人物を見上げる。
胸や腰、肩などといった要所だけを光沢のある防具で包んだ、動きやすさと防御力を兼ね備えたいでたち。
鍛え抜かれた本職の戦士が、身軽さも求められる冒険行に赴く際の定番装備である。だが、その防具が陽光を反射して放つ煌めきを見たラトは首をかしげながら注視する。
「あなたもこの町に?」
「ああ」
その時、アルザーの鎧をじっと見ていたラトが突然声を上げる。
「…すっごーい!これってもしかして黒竜の鱗じゃないの?カスタニア山脈の奥地に住むっていう」
「ほう、見ただけで見抜くとは。普通の鉄製に見えるようにしてくれと頼んだのだがな」
そう言うとアルザーはビアトロからラトへと視線を移す。
ヴァーラ=ぶどう
アンダ=果実汁
葡萄ジュースのこと。