死を求めるもの、生を求めるもの
「俺はあんたに恨みはない!でも、ようやく手にした機会なんだ、エダ!あんたをたおして俺は自由を手に入れる!」
試合開始直後、対戦相手がそうエダに宣言する。
相手の名前は知らない、興味もない。
代わりに彼の脳裏に浮かぶのはあの日の光景。
斬りかかってくる相手の剣を受け止め、反撃に出ようとするエダ。
だが、その剣先は鈍い。
それは戦いへの恐怖ではない、あの予選の日以来、事あるごとにあの日の光景がちらつく。それがエダの太刀筋を鈍らせていた。
自分は死ぬために剣をふるっている。だが、彼らはこの先を生きるため、自由を得るために戦っている。
自分が剣をふるえばそれらを奪うことになる。
だったら…抵抗しなければいい。あの一撃をまともに食らえばそれで全てが終わる‥
…しかし、自分に対して振り下ろされる凶器を見るとなぜか体は反応してしまう…
…手に伝わってきたのは…もう、いくども味わったあの感触…
気が付くと自分が手にしていた刃が相手にめり込んでいた。だが、ためらいが刃を鈍らせたか、傷は浅い。
「…やるじゃないか、流石は死神」
そんなエダの内心を知らぬ対戦相手がそう呟き、そして倒れ込む。
「勝者、エダ・イスパー!」
その宣言がなされると観客席からは大きな歓声が上がる。だが、エダはそれに背を向け倒れ込んだ対戦相手を見下ろす。
「…参った、俺の負けだ」
負傷者の手当と救護所への搬送のため、神官と兵士たちが駆けつけてくる。
「…あんたを目標にしてきたんだが…やっぱり及ばなかったか。強いな、あんた」
手当てを受け、搬送の用意が進む間も、その対戦相手は苦悶の表情のまま、ずっとエダに話しかけてくる。
「『セルぺ・メディチ』。あいつには気を付けな。あんたを狙って、何か企んでやがる」
その言葉にそれまで無表情だったエダの表情がは困惑へと変わる。
「なぜ、そんなことを俺に言う」
エダのその問いに相手は短く沈黙した後、答えを返す。
「さあ、なんでだろうなあ、多分危なっかしくて見ていられないんだろう。あんたは剣の腕は立つが、そういうのは駄目そうだからな」
その言葉にエダの表情がわずかに変わる。
「どんなに強くったって、背中から刺されたら終わりだ。前ばっかりじゃなくてたまには横や後ろを見てみな。今まで見えなかったものが見えるかもしれないぜ」
彼が運び出される間、エダはずっと自分が倒した相手を見送っていた。
一方、エダの姿が遠くなっていくのを薄れる意識で確認した彼は意識を失う直前、ひとり呟く。
「借りは返したぜ、死神」
と。