仲裁
自分なら心得もあるし、例え荒事になっても何とかなる。そう考えたビアトロはラトに代わって声を上げようとした、その時。
「あんた、いい加減にしろよ」
「そうだそうだ」
周囲の観客たちからエダを擁護する声が上がる。
「な、なんだよあんたたち」
突然沸き起こった自分達へのの非難に戸惑う二人組。
「そりゃあこっちの台詞だ!お前らここでのエダの活躍知ってんのかよ!」
非難の声を上げている人たちは前からエダの事を知っているようである。という事はこの町の住人だろうか?
「知ってるさ!それを見たくてここに来たんだからな!そうしたらこのざまだ!がっかりだぜ」
「なにぃ!」
「なんだと!」
双方の間を乱れ飛ぶ悪口雑言。だが、このままでは乱闘騒ぎになりかねない。
そう考えたビアトロは息を吐いて心を落ち着け、制止に入ることにした。
「皆さん、落ち着いてください」
「お、あんたは最近酒場に姿を見せている詩人さんじゃないか」
観客の一人がビアトロの姿を見るなりそう言うと彼は内心で安堵する。
自分の事をそう認識しているという事は、彼らはやはりこの町の住人なのだろう。
「ええ。皆さん、ここはわたしにお任せいただけないでしょうか?」
そう言うとビアトロは冒険者たちに向き直り、
「わたしも彼のうわさを聞いてこの町に立ち寄り、彼の活躍をこの目で見ました。
それは噂にたがわぬ腕前。ですが今日はいささか調子が良くないようです、今日の彼の活躍だけで彼の腕や人となりを判断なさらないほうがいいと思います」
感情的になるのではなく、冷静に、淡々と、しかし言葉一つ一つに力を込めてビアトロは説く、と…
「む…」
「そ、そうか。それは悪かった」
ビアトロの雰囲気と周囲の敵意を察したのか、二人の冒険者は素直に非を認め、席に着く。
「ありがとな、詩人さん」
「すまない、エダの調子が良くなくて、つい気が立ってしまったんだ」
エダを擁護していた観客たちも冷静さを取り戻したのかビアトロに謝意を伝えてくる。
それを見たビアトロは実感する。彼を応援している人たちは自分達だけではないことに。
しかし、それは彼自身が望んでいる事でない。そのことがビアトロには歯がゆかった。
もめ事を収めた彼が席に着くと、隣に座っていたラトはうつむいたままだった。心配になったビアトロは声をかける。
「大丈夫かい?」
「いいもん、あの人たちの顔覚えたから」
ラトはまだ不機嫌な状態だった。
「スリエードの娘を敵に回した事、後悔させてあげる」
ふくれっ面で後ろをにらみつけるラトにビアトロは危惧を抱く。
「おいおい、穏便に頼むよ」
「大丈夫、わたしが店にいるときにあの人たちが来たら思いってきりふっかけるように言うだけだから」
「あはは」
その冗談とも本気ともつかないラトの言葉にビアトロは苦笑するしかなかった。
一方、エダ・イスパーの方はと言うと…時系列はやや遡る。