人知を超えし力
その宣言が終わると公の傍らに控えていた側近が角笛を取り出し、開会の合図として吹き鳴らす。
その勇ましい音色は闘技場全体に、そして潮風に乗って澄み切った空に響き渡る。
「ねえビアトロさん、あの角笛の事知っている?」
「特別なものなのかい?」
「うん、お父さんが言っていた。公が戦に出る時にはあの角笛を必ず携えており、あれが吹き鳴らされたとき、必ず公の元には勝利がもたらされる。だからあれは『勝利の角笛』なんだって。
もしかしたら魔法の品かも知れないぞってお父さんが言っていた」
「なるほどな」
ラトの言葉にビアトロはうなずく。
彼も詩人だからわかる。楽器が奏でる音色には不思議な力がある。それは魔法かもしれないし、それとは違う力かも知れない。
あの角笛にしても魔法の力によって兵士に力が与えられたのかもしれないし、その響き自体で味方を鼓舞し、敵を畏れさせていたかもしれない。
「…さて、そろそろかな」
誰とはなしにビアトロが呟いた次の瞬間、突如闘技場に地響きが沸き起こる。
どよめく観衆、そして闘技場の地面に四角い穴が開く。そして階段がせりあがり、そこから地下で待機していた剣闘士やその相手となる魔物が姿を現す。
それを見た一部の観客達からのどよめきは収まらない、おそらく今回この町に初めて訪れた者たちだろう。あれを初めて見たものはその様に驚く、ビアトロもそうだった。
一方、あれを見慣れているであろうラトにとっての関心は別にあるようで…
「すごいね~あれ、どうやっているのかな、魔法?」
「さあ、どうだろうなあ」
ビアトロの適当な相槌にラトは不思議そうに彼を見上げる。
「ビアトロさんでも分からないの?」
「旅をしているからと言っても、何でも知っているわけじゃないのさ」
「そっかあ。うん、そうだよね~」
だが、ビアトロには一つ心当たりがあった。それはこの町の地下に存在する古代王国時代に作られたという地下通路。
あの仕掛けはそれと同じ時代に作られた何かを利用しているのではないか。ビアトロはそう予測している。だが、なぜビアトロがそんな事を知っているかと言うと…
「あ、出てきたよ」
せりあがってきた階段を一歩一歩踏みしめてエダが姿を現す。そしてもう一方からは対戦相手の姿も。
「まずはエダからか」
それはまた別の機会に語る事となるだろう…