交差する光と影
「…それにしても、やっぱり、エダ参加していたね」
「ああ」
気が付くとラトは商売人の顔から、年相応の少女の顔へと戻っていた。
「…優勝できるかな」
「…どうだろう」
「エダが優勝して自由を得たら冒険者になって私の店に来てくれるかな」
その言葉にビアトロは答える事が出来なかった。
エダが望んでいるのは自由ではない。それを果たしてこの少女に伝えるべきだろうか。
ビアトロは答えの出せない自分自身に歯がゆさを感じていた。
「あ、ガシオン公が出てきた」
そのラトの言葉にビアトロは我に返り、闘技場の観客席の中央上段、一般席から隔離された貴賓席へと目をやる。
ガシオン公が幾人かの人物を伴って姿を現す。
何人かは公の屋敷で目にしたことがあるが、見慣れぬ人物もいる。
「あの人、表向きは街の有力者なんだけど、裏の顔は盗賊結社の元締めっていう噂。近寄らないほうがいいよ」
ビアトロの視線の先を見たラトが声を潜めてそう言うと…
「…ああ、気を付けよう」
ラトの言葉にビアトロも表情を引き締め、そう呟く。
着席する来賓、どよめきの収まらない観衆。
そんな周囲を見渡したガシオン公が一歩進み、さっと右手を挙げた、すると…
「静まれ!」
「静まれ!」
「静まれぇ~!」
「これよりガシオン公より開会の宣言がなされる!一同!静まれぇ~!」
観客席に立っていた警備の兵士たちが一斉に声を上げ始め、それを聞いた観衆たちのどよめきが引き潮の様に引いていく。
潮風の音だけが聞こえる程の静寂に場が満たされると、ガシオン公は一同に対し声を張り上げ、宣言する。
「これより剣闘士たちによる戦いの祭典を開催する!戦の女神『シュテフェ』よ!命を掛けて鍛え上げられた技の数々を、とくとご照覧あれ!」