胸中をよぎる波乱の予感
ここから第三章の開始となります。
あれから十と四つの夜と昼が過ぎ、『スカータ・マレ・スタ』は無事に大会の日を迎えた。と言ってもその間、ビアトロは何もしていなかったわけではない。
滞在費を稼ぐため、酒場での歌の披露。それがきっかけで起きたいくつもの出来事、ルーメ・ラース(冒険者組合)からの依頼、何人かの冒険者たちとの冒険行。
だが、それらを語るのは、またの機会になるだろう…
ともあれ、起床したビアトロは朝食を済ませ、身支度を整えると窓を開け、空を見上げる。
視界に広がるのはどこまでも続く青い空。水平線の向こうから陸に向かって絶え間なく吹き付けてくる潮風、それに乗って彼方へと流れていく雲たち。
それはいくども見上げた光景。だが、今日の空はなにかが違うようにビアトロは感じた。
今日、ここで何かが起きる。そんな予感を覚えたビアトロは表情を引き締めつつ窓を閉めると、町に出る。
大通りはビアトロが見た事ない程の人であふれていた。
おそらくルーメ・ラース(冒険者組合)によって周辺の町にお触れが出されたのだろう、大勢の旅人がこの町を訪れ、活況を呈している。
その中にはビアトロが知っている顔も何人かいた。
この間まで世話になっていた商隊に属している商人や用心棒の戦士達である。
「ビアトロさんじゃないか、また、どうだ一緒に。今度は南の方に行く予定なんだが」
「シムリー神(旅と商いの神)の導きのままに」
等と、他愛のない会話を交わしつつ、ビアトロは闘技場への歩みを速める。